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聴講者のメモから

「自然と人間の共生―湖の環境の例から」

 

なぜ「共存」でなく「共生」か

○「共生」の意義 生物学のシンビオーシスの訳語から人間集団間の関係まで拡張し使用。
 相手の文化や伝統を理解し尊重しながら、相互の批判と交流を通じてより次元の高い共存の道をさぐろうとする姿勢。したがって自然との共生とは、自然の原理を理解し、本来の構造と機能をもった自然との存続をはかり、それと人間活動との共存をはかることである。 自然―生態系(エコシステム)は植物、動物、微生物だけでなく空気、水などの無機環境すべての間に複雑な共生関係、相互依存関係があり、全体を一つのシステムとして結び付けている。

○人と人、人と自然の共生とは
 自然のシステム、生態系は人間が地球に誕生する前に既にできあがったシステムであり、人間はその一部分として出現したがそのシステムからはみ出した独自のシステムを作って生活している。
 自然にとって人間はいはば邪魔物。
 自然との共生が強調されるようにったのは、いうまでもなく、地球上の環境のこれ以上の悪化をくいとめるためには、自然のはたす役割に期待するところが大きいらである。それには、?自然のシステム(生態系)は環境を維持し安定化する巨大な働きをもつ?進化の歴史が蓄積した地球の財産―生物多様性を保持することが二つの役割である。

○なぜ共生か―自然の環境の安定作用
 ・植物界とくに森林生態系は大きな炭素の貯蔵庫→大気の温暖化への防止効果
 ・水の循環への影響→気候変動、土壌の保護、治水等の効果
 しかし自然のもつ環境調節作用はそう強力なものではない。人工システムははるかに強力→自然システム個々の働きはそんなに強力ではないが、多様な働きで非常に大きな働きをしている→残された自然を利用しないわけにはいかないが、その利用は、自然本来の構造と機能が失われない程度の持続可能(サステイナブル)な利用にとどめなくえはならない。

○生物多様性保存のために
 自然保護=生物多様性の保護=希少(絶滅危惧)種の保護という短絡的な風潮は疑問。珍しい種の保護だけが自然の保護ではなく、生物の種の保存は、その種が属する生態系の一部として生活することによって保証されているのであり、量的に優勢な生物―普通種―が減少すれば珍しい種の生存もおびやかされるのでる。したがって種を維持し、生物多様性を維持していくためには、普通種を含めて生態系ぐるみで保護するのがもっとも有効な方法である。

○自然と共生のモデル
 ・里山と田畑が作る二次的な生態系と人間の生活とがバランスした昔の姿には戻れない(われわれの生活自体が変わってしまったために昔に帰れといっても無理で過去に手本はない)
 ・人間による干渉を最低限にとどめた自然の生態系と、非常に高度に利用されている人間の生活空間とが共存した形をめざす。

大要以上の内容を分かりやすく実例を交えて興味深く講演された。最後に実例―琵琶湖で起こっていることとして、ものの保存(文化財の保存)と生物の保存(個体でなく種)の違いや、本当の自然保護とはわれわれを楽しませる自然だけでなく昆虫やヘビやヒルなどもあわせたもののありのままの自然の尊重が大事だと結ばれた。

 長い間ご清聴をありがとうございました。

 

 

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