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生物が集まって形成されているものですけれども、その骨組みを作っているのは一番普通な数の多い種類なんです。例えばマツ林だったら、マツという最も量的に多い普通種が骨組みを作って、その骨組みの中で他のいろいろな生物がいろいろな関係を持ちながら生活している。それが生態系というものですね。ですから、普通種も含めて保護するのでなければ、多様性の保存はできない。そういう意味で、生物の多様性を保存するためにも、自然の環境維持機能を保全する場合と同様に、やっぱり十分に自然の性質を保存している生態系を、できるだけたくさんの量を残しておくことが、基本になります。

 

自然との共生のモデル

 農林水産業だけが主な生業であった昔の時代には、人間は田畑を作り、その田畑と自分たちの生活を維持するために周りの山林を使っていた。人間がたえず自然からいろいろなものを収穫しますから、元の原始的な自然とは違う、改変された自然が村々を取り巻いていました。いわゆる里山というのがそれです。そういう里山と田畑が作っている二次的な生態系と、人間の生活との間にうまくバランスがとれて、人々は持続的な生産と生活を続けることができました。ここでいうのとはちょっと意味が違いますけれども、それは人間と自然との共生であったという人もあります。

 しかし、いま「そういう時代はよかった、昔のように里山を守っていきましょう」と言っても、それは無理なんですね。我々の生活そのものが、すっかり変わってしまっているからです。だから、我々がこれからしなければならないのは、すっかり変わってしまった今の生活と自然との間に、どういう関係を保っていくのが一番いいのかを探し求め、それを実行していくことです。それは、我々がこれから作らなければならない関係でありまして、そのお手本は過去にはないのであります。

 今日私がお話したことは、それに対する一つの提案であります。要約しますと、人間による干渉を最低限にとどめた自然の生態系と、非常に高度に利用されている人間の生活空間とが共存し、前者をできるだけ多く確保していくような形を、一つのモデルとしたらどうだろうかということになります。

 

実例―琵琶湖岸で起こっていること

 あと、残りました時間で、琵琶湖の周りの自然の状況、そこでどういうことが起こっているかを、実例として少しお話したいと思います。

 例えば、さっきのアセスメントの話ですが、開発予定地の中に珍しい生物がいた場合、植物だとすぐ移植、どこかへ移し植えましょうという話になります。琵琶湖畔の町のすぐ近くに、珍しく昔そのままの水辺のヨシ帯とその後ろにヤナギの林とが残っている場所がありました。林の中へ入ってみますと、みごとなヤナギの大木がありまして、その下には春になるとノウルシという黄色い花が一面に咲き、小さい面積ですが貴重な存在でした。(図5)

 


図5 早春の湖畔のヤナギ林(1989年写す)

 

 ところが、ここを都市計画道路が通ることになりました。反対運動が起こりましたが、ヤナギを移植しましょうということで折り合いがつきました。図6に移植後の写真もあげておきました。

 後ろは湖、手前は道路です。幸い大木の大部分は根付きました。しかし、ここへ元のような林が成立するかどうかはわかりません。

 ここで気をつけなきやならないのは、我々が何を保存しようとしているかということです。それは、その種類を保存し、できればその種類を含む生態系を保存しようとしているわけです。そこが、文化財の保存と違うところです。文化財の保存というのは、何か重要な遺物、例えば考古学的な遺跡から土器が出てきたとすると、その土器が壊されずに永久に残ればそれでいいわけです。それはモノの保存ですね。ところが、生物の保存というのは生物の個体というモノの保存

 

 

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