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この二つが基本となるプリンシプルだと思います。

 この考え方を自然と人間との関係にあてはめて両者の共生の条件をあげるならば、まず我々は、自然というのはどういう原理に従って働き存続しているのかということをまず十分に理解することが必要です。さらに、そういう性質を持った自然が地球上で存続していくことを認める。この二点が基本的な条件になると思います。

 なぜ、「自然との共生」が声高に唱えられるようになったのか。それは、よくご承知のように、地球の環境が人間の活動の影響でどんどん悪くなりつつある、これ以上地球上の環境が悪くなっては困る、環境悪化を防ぐ上で自然の果たす役割が非常に大きい、だから自然を守らねばならない、ということです。

 もう少し具体的にいうと、自然を守るには二つの主要な目的があると思います。まず、自然のシステムは、我々にとって快適なこの地球上の環境を調節し、維持していくために、非常に大きな働きをしている。もし地球上から本来の自然のシステムが全部なくなったら、地球の環境はがらりと変わってしまう。だから自然を守ることによって地球の環境を守ろう。それが第一の目的です。第二は、「生物多様性」という言葉で表わされているものの保存です。これは、地球が何十億年の進化の歴史の中で蓄積してきた自然遺産と考えてよろしいかと思いますが、多様な生態系、たくさんの生物の種類、それが持っている無数の遺伝子、そういう生物多様性を我々は守っていかねばならない。この二つの目的が、自然に対する関心を非常に高めてきた原動力だと思っています。

 

なぜ共生か−自然の環境安定作用

 自然のシステムが地球と地域の環境を維持し、調節している働きについては、すでにある程度ご承知と思いますが、1〜2の例をあげてみましょう。例えば、地球上にある植物体の中に貯えられている炭素の量は、大気中にある二酸化炭素として存在している炭素の量とほぼ同じぐらいなんですね。さらに植生を支えている土の中には、分解途中の有機物の形で、それと同等以上の炭素が含まれている。ですから、植物界とくに森林生態系は非常に大きな炭素の貯蔵庫になっている。しかもその貯蔵庫は、たえず大気中から二酸化炭素を吸い取って有機物を合成し、できた有機物はいつかは死んで、微生物や動物の力で分解され、また二酸化炭素になって大気中に戻っていく。従って、森林を大量に伐採し焼きはらって開拓すると、二酸化炭素がどんどん大気中に増えて、地球の温暖化が促進される。逆に森林を増やしていけば、それだけ大気中の二酸化炭素を減らすこともできるわけです。

 その他にも、大きな働きはいろいろあります。地球は水の惑星でありまして、豊富に水があり、それが大気と海と地面との間をたえず循環することによって、地球の環境の骨組みの一つができあがっています。陸地の上に降ってきた雨が蒸発して大気へ還るとき、少なく見積もってもその半分は植物の体を通って蒸発するんです。つまり、根から吸い上げられて葉っぱから蒸発〜蒸散と言いますが〜していく。ですから、植物がなくなれば、非常に大きな影響があるわけです。植物が生えていない裸の土地と比較すると、同じ量の雨が降ってきたときに蒸発する水の量は、植物があれば2倍ないしそれ以上になります。蒸発する時には蒸発熱として太陽エネルギーを消費しますから、地面近くはあまり暖まらないわけで、そのエネルギーは、上空で水蒸気が水滴に変わるとき凝結熱として放出され、上空を暖める。だから植物があるとないとでは、気候が大きく変わります。例えば、アマゾンの森林をごっそりなくしてしまえばどのくらいの影響が及ぶか、そういうシミュレーションをした研究がいくつもありますが、アマゾンだけでなくてきわめて広い範囲で気温や雨量が変わるという結果が出ています。

 その他、森林があれば地表面が保護されて土が流れないとか、あるいは洪水の害が軽減される、川の水が安定する、といったさまざまな働きがあって、地域的にもあるいは地球全体としても、自然のシステムがあるために現在の地球上の環境が維持されていると考えられます。それがなくなっては困るんです。自然環境に関係した研究者がほぼ共通に持っている考えは、「自然はすでに壊されすぎるぐらい壊された。これ以上自然が壊れれば、地球の環境は非常に不安定になっていくだろう」ということです。それを厳密に証明せよと言われると非常に難しいんですが、我々は経験的にそういう印象を持っております。

 

 

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