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普通はお互いが相手から利益を得ている、そういう関係が共生だというふうに聞きました。例えば、木の幹なんかにくっついているウメノキゴケなどのような地衣類という植がかありますが、それは厳密な意味での植物ではな〈、カピの類と単細胞の藻類とが合体してできている生物でありまして、お互いに相手から利益を得ながら生活をしている。

 あるいは、珊瑚礁へ行きますと、イソギンチャクの間にクマノミという仲間の魚が住みついています。イソギンチャクは、触手といいますが、指みたいなものをたくさん伸ばしており、その先に毒を出す細胞をもっていて、普通の魚だとそれに触れると麻痺して食われてしまうわけですか、クマノミだけはそれに触っても平気なんですね。イソギンチャクのそばに住んでいることによって、クマノミは他の肉食の魚なんかに食われることを逃れているわけです。イソギンチャクのほうがどんな利益を得ているかは、もう一つはっきりしませんけれども、たぶんクマノミがそこにいることによって他の魚もうっかりやってきて捕まるとか、あるいはクマノミが食った餌の残りを食べるとか、そういうふうな関係があるんじゃないかと思います。

 もう一つ二つだけ例をお目にかけます。最初はアリと植物との共生関係です。図1の植物は、オオパギという木の仲間で、東南アジアの道ばたにごく普通に生えている植物です。この木の幹の中心のところは、中空になっていて、そこにアリが住み、幼虫を育てております。また、アリはカイガラムシを運んできて、幹の内面にくっつけているんです。そしてカイガラムシが分泌する甘い液をアリがなめている。つまり、住みかとして、また牧場としても使っているわけです。植物のほうがどういう利益を得ているかといいますと、この植物にツルが巻き付いてきたり毛虫がついたりすると、アリがそれを取り除くんです。このように、両者はお互いに利益を得ています。

 


図1 アリと共生するオオバギの一種(マレー半島中部)

 

 アリと植物との共生関係には、実にいろいろなものがありまして、お話しするときりがないのですが、もう一つの例は図2のようなものです。

 


図2 他の木の上に着生するアリノスダマの一種
(インドネシア、東カリマンタン洲)

 

 右手にある木の幹に、根元の膨らんだ別の小さな木か1本くっついているんですが、後者のほうががアリ植物で、根元の膨らんだところを切ってみますと、中に小さな空洞がいくつもあって、アリの巣になっています。(図3)

 


図3 アリノスダマの肥大した根の断面

 

 空洞の中には、アリが排泄物を棄てる場所があり、その部屋の壁には、植物が養分を吸収することができる細胞を用意しております。アリの排泄物の中に入っている窒素とかリンとか、植物にとって欲しい養分をそこで吸収する。そういう相互利益があるので、このようなアリ植物はやせ地や高い木の上に多いのいです。

 さらに生物学では、この頃は「共生」というものをもっと広く定義して、必ずしも一生一緒に生活していなくてもよいとしています。例えば、

 

 

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