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それを見学に行ったわけです。素晴らしい建物、素晴らしい美術品がある、それから庭園は夏には野外のシェークスピア劇を毎年やるそうでございます。

 ところがその500ヘクタールもある広大な庭園、建物の管理は、わずか9人ぐらいの庭師と管理人で管理している。それだけではとてもできっこないんです。それは延べ1万5000人ぐらいのボランティアが参加して、これを管理することになる。そして年間150万人ぐらいの入園者、見学者があるということでございます。もちろんわずかですが料金は払って入る。そういうようなシステムに私は非常に驚きました。

 これはイングランドのナショナル・トラストでございますが、スコットランドのナショナル・トラストとは別の組織になっております。これも翌年、1953年、昭和58年に私、まいりました。スコットランドのエジンバラ市にスコットランド・ナショナル・トラストの本部かあるんですが、その本部へ行ってこれもまたいろいろなことを伺いました。エジンバラからこれもまた車で小一時間のところ、60キ口ぐらい離れたところにカルルスという港がありまして、そこにリトルハウス、「小さな家」というその町並みを、これをスコットランド・ナショナル・トラストが買い取って管理しています。そしてそこに昔からの人をそのまま住まわせている。わずかな、本当にささやかな町並みであり、いわゆるリトルハウスというぐらいですからまあまあ小さな家です。ただ、この港は昔、塩の出入りする、塩を運び込む港だったそうですが、それを昔の面影のまま保存すべき街路と、町ということで、リトルハウスということで保存している。

 こういうふうにイングランドでもスコットランドでも、これは発祥の地であります。私が行きました時にナショナル・トラストの会員は約100万になっておりました。発足の時は会費か1ポンドだったんですが、一人の人に1万ポンドもらうよりも、1万人の人に1ポンドづつ寄付してもらうことによって、このナショナル・トラストが発展するんだと、そういう主張で1ポンドにしたそうです。私が行きました時は10ポンドでございました。年会費が10ポンドといっても五、六千円でした。私も会員になってまいりました。

 そういうようなことで、私、ナショナル・トラストの日本版を作りたいと環境庁長官時代に思いました。そして今日の講座にもお話ししていただきますが、今ナショナル・トラスト協会の副会長、当時は干葉大学の教授をされておりました木原啓吉さんを中心に7人の学者の先生。それは環境問題の先生方、税制の先生方、法律の先生方、こういう方に集まっていただき、環境庁長官の諮問機関としてナショナル・トラスト研究会というものを作ってもらいました。そして日本的なナショナル・トラストはどうしたら定着し、どうしたら発展するかということを研究してもらったわけでございます。そういう税とか法律の専門家にお願いしたのは、イギリスのナショナル・トラストがこれだけ発展したのは、イギリスの財政法あるいはまた新しくてきたショナル・トラスト法、これによっていろいろと保護されている。税制上の保護もされている、法律上のいろいろな保護をされている。そういう国の法律による保護ということも必要だということで、そういう先生方にも集まっていただいて7人の研究会を作ってもらったわけです。

 今は日本中にいろいろなナショナル・トラストか各地にできました。それを(社)日本ナショナル・トラスト協会が連絡調整をいたしまして、1年に1回全国大会を開いて、今年も6月に青森県の八戸市で開きました。そういうように毎年開いているんですが。今後もこの(社)日本ナショナル・トラスト協会が、私はぜひ発展するように皆さんにもご協力をお願いしたいと思います。ナショナル・トラスト運動というのは単に歴史的な街路、歴史的な建造物、あるいは素晴らしい自然、これを守っていくだけではなくて、これをやることによって国民の皆さんに、また青少年の皆さんに自然の大切さ、歴史の大切さ、いわゆるそういう環境教育、歴史教育というような面で、非常に役立つことだと思うわけでございます。

 今日もその一環として「環境とナショナル・トラスト講座」をこれからお聞きいただくわけですが、どうぞ皆様方、今日は大変立派な講師が大勢そろっていらっしゃいます。先生力のお話も十分お聞き取りいただき、皆様方にもまたいろいろとご協力を心からお願いいたしまして、ご挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

 

 

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