挨拶
社団法人日本ナショナル・トラスト協会会長 原 文兵衛
【司会】おはようございます。ただ今から「環境とナショナル・トラスト講座1998」を開催させていただきます。私、社団法人日本ナショナル・トラスト協会理事の岡田清利でございます。
本日は雨の中、皆さんありがとうございました。そして今日はまた、滋賀県民か誇りに思っておられるこの滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールを使用させていただくことになりました。皆様方に厚く御礼申し上げます。それでは、私どもの方の会長であります原文兵衛会長かご挨拶をいたします。
【原】 今岡田さんから紹介をいただきました原文兵衛でございます。日本ナショナル・トラスト協会の会長をやっておるのでございますが、今日はあいにくの雨になりましたけど、Γ環境とナショナル・トラスト講座」、皆さんにおいでいただきましてありがとうございました。
私、もう今満で85歳です。年をとりますと思い出話をついしたくなるんですが、実は昭和15、6年頃、今から57、8年前、私、滋賀県庁に勤めていたんです。昔の、戦前の大津、琵琶湖をよく知っているんてすが、すっかり変わって、道もわからなくなりました。琵琶湖も、湖畔の情景がすっかり変わりました。それから湖の氷も変わったんですね。私が昭和16年の夏、琵琶湖での思い出ですが、県庁も昔は夏は半ドンといって半日で終わり、午後はいろいろ錬成といって水泳なんかするんです。琵琶湖で泳いでいて、その水が飲めたものです。そのまま飲んだんです。事実、今はとってもそんなことはできませんね。それほど変わってしまったわけでございます
それはさておきまして。私、昭和57年、1982年に環境庁の長官をしておりました。その時に英国のナショナル・トラストというのを知ったわけです。英国は産業革命によって非常にいい自然、あるいはまた由緒ある建造物、歴史的な建造物、そういうものがどんどんと開発によって破壊されていく。これを何とか防かなくてはいけないというので、1895年、今から103年ぐらい前ですか、ナショナル・トラストが創立されたんです。私か環境庁長官をしていた頃は約100万人会員がいるということでございました。何とかこの日本版を作りたい。日本もどんどん高度成長、あるいはバプルということでいろいろな開発が進んで、素晴らしい歴史的な町並みとか建造物かどんどんなくなっていく。何とかトラストをやりたいというので、私、実はイギリスのロンドンのナショナル・トラスト本部に行きました。
その時の会長はサー・ギプソンという方でございました。事務局長はミスター・ローズという方でございますが、その人からいろいろなことを教わりましたし、また現地も視察しました。ドーバー海峡のバーリング・ギャップという断崖、海岸線、それを拝見しました。その断崖の上がずーっと草地になっているんですが、いわゆるそれはクリオン草地と言っておったんですが、それもみんなナショナル・トラストで買い取ったんです。放っておけばどんどん開発されて別荘地になってせっかくの海岸線がなくなっちゃうということで、全部買い取ったわけです。
また、ロンドンから車で約1時間ぐらいのところでございましたかね、ボールステンレーシーという町があります。そこに200年ほど前からの大金持ちの大邸宅、大庭園、500ヘクタールの土地があるんです。その中に牧場もあり農園もある、というような大邸宅、大庭園でございました。それを未亡人になられた方が遺言でナショナル・トラストに贈与したんす。いわゆる遺贈です。そうしますと相続税がかからないんです。そしてまた家族はそのままそこに住んでいることができるという制度でございます。