小網代の森の保全とナショナルトラスト支援
岸由二 慶応義塾大学経済学部教授
いるか丘陵ネットワーク世話人
(1)アカテガニの暮らす谷・保全へ
小網代の谷は、神奈川県・三浦半島の一角にあります。アカテガニの賑わい暮らすその谷は、長くリゾート開発の予定地とされ、破壊の危機にさらされていましたが、市民・行政の15年にわたる努力か実り、95年春、神奈川県による保全方針の表明を受けることができました。谷の自然を紹介しつつ、保全をめざした市民活動の道のり、さらにナショナルトラストを活かす予定の、今後の保全策の推進に係わる課題などを、報告します。
(2)完結した自然集水域生態系
小網代は海辺の自然拠点です。一平方キ口の規模の谷は、源流から河口の塩水湿地まで一面の緑に覆われ、森・干潟・海がひとまとまりとなった、<完結した自然集水域生態系>の様相を見せています。関東地方では唯一と思われるこのランドスケープ配置に対応して生きものの多様性も豊かで、94年の中間集計で、すでに1350種を越す多様性が記録されました。その象徴となったのがアカテガ二です。森全域で暮らし、海辺で放仔し、海で幼生期を過ごず本種は、森と干潟と海で構成される小網代の自然を、天蓋種(umbrella
species)として代表する生きものです。真夏の大潮の晩の放仔のドラマを中心とした、カテガ二の暮らしへの注目や共感は、小網代保全の世論形成を大きく支える力になってきました。小網代はアカテガニたちが守った谷、といえるかもしれません。
(3)小史/開発計画から保全方針の表明へ
1983年:小網代の保全をめざず市民活動(ポラーノ村を考える会)発足
1988年:三浦市議会・三戸小網代開発促進決議
1989年:ゴルフ場開発規制の特別解除に反対ずる市民署名
小網代の谷の保全に関する要望書(ナチュラリスト有志)
1990年:国際生態学会議小網代エクスカーション
浜清掃・自然観察会・「かながわのナショナルトラスト運動」支援を柱とする活市民活動(小網代の森を守る会)本格化
NHK地球ファミリーか小網代のアカテガ二の暮らしを放映
1991年:力二パト開始
1994年:県の地域環境評価書発表(小網代はA1)
前ページ 目次へ 次ページ