日本財団 図書館


知的障害者福祉研究報告書
平成9年度調査報告  〜知的障害者福祉研究会 提言報告〜


今後のわが国の知的障害者福祉の方向

地域での“あたり前の暮らし”を!
わが国の知的発達に障害のある人の福祉は、1947年児童福祉法の「精神薄弱児施設」、1960年の精神薄弱者福祉法の「精神薄弱者援護施設」の位置付け以降、入所施設を中心に展開してきた。1970年代の施設の量的拡大、とりわけコロニーに代表される日本的大規模施設の出現は、ヨーロッパ、アメリカが大規模施設解体、地域生活への移行をしようとする過程で進行したものであった。そして「通過施設」的性格(法的にも、そううたわれている)から、「生涯施設」的性格(長期利用を当たり前とする)に変化していった。この変化は、「親なき後」を最大の課題とする知的発達に障害のある人の家族にとっては、大きな安心を与えるものとの認識が広がっていく傾向を定着させていくこととなった。
1980年代に入って、通所施設、小規模作業所等、地域における“日中活動の場”は増加してきたが、「親なき後」を展望させる安心感には、なかなかつながっていない状況にある。また1990年代に入って、地域における“暮らしの場”の一つとしてグループホームが微増してきたが、「親なき後」を展望させる安心感の決め手となるところには、なかなかつながっていない状況にある。これらの地域戦略は、入所施設での戦略に比して、財政的裏打ち、そこに関わる人たちの持っている労働条件、自治体等の取り組み姿勢、ひいては国の取り組み姿勢、等々において、弱いが故に、かような状況にあるといえよう。
今日、知的発達に障害のある人の福祉は、1995年12月発表の「障害者プラン−ノーマライゼーション7か年戦略」、1996年7月厚生省大臣官房障害保健福祉部の発足、1997年12月の身体障害者福祉審議会・中央児童福祉審議会障害福祉部会・公衆衛生審議会精神保健福祉部会の合同企画分科会の「中間報告」の発表、と矢継ぎ早に展開を示している。その方向性は、基本理念として、
1 障害者の自立と社会経済活動への参画の支援
2 主体性.選択性の尊重
3 地域での支え合い
の、3点を掲げている。

そして、基本的な施策の方向として
1 障害者の地域生活支援施策の充実
2 障害保健福祉施策の総合化
3 障害特性に対応する事門性の確保
4 障害の重度・重複化、高齢化への対応
5 障害者の権利擁護と参画
と5点に整理されている。「総合化」が最大のキィワードといえるが、数の論理、歴史的展開の背景の相違、入所施設に余りにも傾斜した現状、等々、知的発達に障害のある人の福祉にとっては、ハードルが高いものと予測される。なお、施設福祉を基軸におく考え方に大きな変化は見られないこと、新たに重度・重複者の「生活施設」が、提起されている。
しかしながら、社会・援護局長の諮問機関「社会福祉事業等の在り方に関する検討会」の1997年11月の報告「社会福祉の基礎構造改革について」を受けて、同11月に中央社会福祉審議会社会福祉構造改革分科会が設置され、本年6月を目途に検討が進められる状況が生まれ、前段の動きも結果として大きな影響を与えられることになった。すなわち、国の「6つの改革」中の社会保障構造改革の主要な位置を占めることとなる性格にあり、措置制度にどっぷり浸かってきた知的発達に障害のある人の福祉にとっては、どちらの方向(措置制度の全面廃止、あるいは児童福祉施設と並んで知的発達障害関係施設の措置制度存続)であっても、大きな判断を迫られることとなるものと予想される。かような情勢にあって、今後の方向性については、シンプルに以下のように考える。

1 地域生活の施策の方に財政的に重点を置くように、舵取りの変更を行う。
2 地域生活を支える施策のバラエティに富んだメニューの開発と、それらのネットワークシステムの検討・具体化に力を注ぐ。
3 地域生活施策による利用者数を、量的に拡大することに重点を置く。
4 入所施設の段階的解消のプログラム開発に重点を置く。
?@ 公立公営、公立事業団運営、等の施設の段階的解消
?A 入所施設に働く人の配置換え計画のプログラム開発
5 1〜4に対応した施策プログラムの開発研究に重点を置く。


前ページ 目次ページ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION