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知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒアリング記録

室津 滋樹氏(横浜市グループホーム連絡会)

出席者 (財)日本船舶振興会:高木、中村
     (株)福祉開発研究所:宮森、小松、小林
場 所 本牧生活の家

【無認可施設について】
○グループホームをスタートさせたのは、昭和59年からで国で制度化される5年前のことである。グループホームの制度化の順序は、まず横浜市で制度化され、その後に国の制度となった。
「無認可の試し」というか、その事業をどう育てていくのかということが重要である。一度制度化されれば安定するが、それまでの過程が非常に難しいのである。そのような「無認可の芽」をどのように育てていくのかということがこれからの福祉を考えていく上で非常に重要なことであると思っている。
○今回の阪神大震災で、国の制度にのらない無認可の作業所等がかなり被害を受けている。
しかし、無認可であるために建て直し等について補助の対象となっていない。
○国の制度となる前に先行して行われていた色々な試みが、災害等で被害を受けると、どこからも援助の手をさしのべてもらえない状況がある。
○急務の問題としては、神戸で被害を受けた無認可の施設をどのように建て直していくかということ是非考えていただきたい。

【横浜市におけるグループホーム制度】
○横浜市において、グループホームは昭和60年に制度化された。
○横浜市における「グループホーム制度」の特徴は、法人でなくても運営できる点である。
○また、障害の種別を問わないということも制度の大きな特徴である。国の制度では知的障害者のグループホームと身体障害者のものでは別に制度化されている。
○ここのグループホームは「運営委員会」によって運営されている。−横浜市には「在宅障害者援護協会」という社会福祉競技会の障害者部門だけを独立させたような団体があり横浜市はその援護協会に補助金を出し、ここはそこから補助を受けている。−「運営委員会」はこの「在宅障害者援護協会」を中心に組織されている。

【重複障害者への対応】
○現在、ここのグループホームには5名が生活しているが、身体障害があって、車椅子を使っているということはみんなに共通している。そして、そのうちの何人かは身体障害と知的障害を合わせて持っていたり、重複した障害を持っている人の方が多い。
○今は養護学校を卒業した人でも重複した障害を持っている人が多いことから、知的障害、身体障害というように分けることの方がむしろ難しい状況である。
○母体となる昼間の活動場所は作業所であるから、作業所自体も知的障害、身体障帯を問わず受け入れて活動している。
○利用者すべてに共通しているのは、身体障害があることであるから、建物は、まず身体障害に配慮した構造になっている。援助の方法も身体障害に配慮した援助、たとえば入浴、食事の時の介助等が必要となる。ここの利用者でいうと5名中3名は全介助が必要な人たちである。
○身体障害についての援助が必要な部分と、知的障害についての援助が必要な部分と両方の援助が必要になってくる。

【職員体制について】
○職員の数は、2ヶ所のグループホームで計8名。入所している方が2ヶ所合わせて10名なのでほぼ1:1の職員配置になっている。
○運営を補助金だけでは行っていくのは無理である。横浜市では入居者1人あたり81,000円の補助金が受けられる。5人の入居者で年間480万円となり、この金額はちょうど1人分の人件費にあたる。つまり、横浜市の考え方としては、グループホームに5人利用者がいると、1人職員を雇用して、まだ少し余裕があるから、それで日曜日等も賄いなさいということである。
○国は横浜市よりもう少し低く、職員を1人雇用するのも難しい。
○グループホームは1日24時間、365日対応していくわけであるから、職員が1人では、かなり無理がある体制である。ましてや入居者の障害が重くなればこれでは、全く対応できない。
○2〜3年前から重度加算の制度ができて、5万円が加算されるようになった。これで1人の常勤職員と非常勤職員を雇用できる程度である。完全に2人体制というのは難しいけれども、ほぼ2人の体制を組めるだけの金額である。
○「本牧生活の家」の場合は朝起きたときから、夜寝るまで介助が必要で、場合によっては夜中の介助も必要な人がいるわけであるから、職員が2人でも追いつかない状況である。
○ここの職員の体制は、1ヶ所のグループホームについて職員4名とアルバイト、ボランティアで組織している。午後7時くらいから翌朝8時くらいまでは職員とアルバイトとボランティアを組み合わせて常時3人はいるという体制を作っている。
○このような体制を維持していくには、重度加算があっても、とても足りない額になる。
〇生活保護の中に「他人介護料」という項目があって、必要な人は一定の介護料を受けられる。福祉事務所で決められている限度額は68,700円。また県知事が認めれば、103,050円の介護料が受けられる。
○ここの利用者でいうと3名は103,050円、2名は68,700円の介護料を受けている。それを支払っていただいて、横浜市の補助金と合わせて職員の雇用に充てている。
○また、横浜市が派遣するホームヘルパーの制度も利用しており、このように大きく分けて3つの制度を組み合わせて、グループホームの運営を行っている。
金額に換算すると多い人で月に30万円くらい。
○「本牧生活の家」の入居者が入所施設にはいるとすると、重心の施設となるから横浜市の場合で1人月額100万円程度かかる。それに比べると1/3ぐらいの金額である。

【グループホームを開設した背景】
○初めは、障害を持つ人たちの集まれる場所を持ちたいということから、まず作業所をスタートさせた。
○20年ほど前のことであるが、当時「在宅訪問活動」という障害者の家に行って、「少し外に出てみませんか」という呼びかけ活動があった。その当時は、本当に家から外に出たことのない人たちばかりであった。
○作業所が始まって、それまでずっと家の中にしか居れなかった人たちが、みんなそれぞれに、いろんなやりたいことを胸に抱いていた。しかし親が病気等になってしまうとそれらの可能性が全て奪われてしまうという状況があった。
○親に左右される人生ではなくて、自分自身の生活を作らなくてはいけないということをまず感じていた。
親から離れて自分で生活したいという気持ちを持つ人もいるし、また入所施設に何年間かいた人は、もう施設には入りたくないという気持ちを非常に強く持っていた。
○しかし、アパートで1人で暮らしたくても、重複の障害を持っているとなかなかそういうわけにはいかない。そのようなことから、グループなら何とかなるんではないかということから、グループホームを昭和59年からスタートさせた。
○現在2ヶ所のグループホームで1ヶ所の作業所を持っているのだが、これぐらいの割合が適正ではないか。
○わが国でいえば、現在ある作業所数の2倍くらいの数のグループホームが必要なのではないかと思っている。
○作業所の利用者16人のうち10人はグループホーム、2人はアパート、4人は親元から作業所に通っている。

【グループホーム開設までの経緯】
○開設当時は横浜市の制度もなくて、補助してくれるところもほとんどなかった。
○まず大変だったのは建物探しで、障害者が5人住むといって、貸してくれるところはなかなかない。個室を前提としているので、最低1階のフロアに5つの部屋が必要となる。また、みんなが集まれる食堂も必要である。つまり1階に5LDKが必要となるのだが、そのような建物はなかなかない。
○半年ほど探して、やっと貸してくれるところがあって、600万円をかけて改造を行った。いずれ取り壊す家だということで、これだけの改造を行えたのだが、これも大家さんにとってはいやがられる点であった。
○その家が取り壊されることになって、次の場所を探す際には、これからマンションやアパートを建てる大家さんを捜して、設計の段階からグループホーム用に配慮を行い、そこを借り上げるという方法をとった。
○5人分のグループホームを作るコストは、5人分の1ルームマンションを作るコストに比べて、必ずしも高くなるということはない。たとえば、浴室を1つ作る単価はグループホームの方が高いが、5つ浴室を作るのに比べれば、1つの浴室で済むグループホームの方がコストは安い。
○ふつうのマンションと同じように建設コストに対応した家賃を大家さんに支払っている。(50万円ぐらい)

【運営面について】
○別々の敷地で2つのグループホームを運営するより、同一の敷地に5人のグループホームを2つ作る方が、職員の配置の仕方等、運営面においてより効率である。しかし、10人になるとどうしても「集団」という感じであり、4人〜5人までが生活の単位としては適当あると考えている。
○建物の借り主は「運営委員会」で、入居者は、それぞれ運営委員会に家賃を支払う。家賃は1人61,500円−この金額は生活保護の限度額である。−で、5名であるから約30万円。これに横浜市からの補助が175,000円が受けられる(家賃金額の1/2が限度額となる)。
○これらを合わせた、約50万円を家賃として大家さんに支払っている。

【建設費、建築上の配慮について】
○建設コストの概算は、だいたい坪70万円くらい。建物自体の建設費は大家さんによるものだが、障害に対応するための設備については運営委員会の負担である。
○建物の転用が難しいことから、敷金は10ヶ月分程度支払っている。
○3つ部屋にはリフターがついている。もう1ヶ所のグループホームでは、1〜2階の移動用エレベーターを設置している。
○自分たちで見つけてきた設計事務所(スペース設計・地域生活情報センター)を大家さんに紹介して設計を行ったので、構造としては使いやすい。
○以前、障害者に対応した住宅とは、どのようにすれば暮らしやすくなるのか、これらの設計事務所と一緒に研究した時期があり、その成果がここに現れているといえる。
○座位保持、いすの問題と建物の問題を一緒に考えていけるような、障害の重い人がどうすればより自由に動けるだろうかということをずいぶん考慮した。

【グループホームにおける生活上の配慮】
○知的障害の人と身体障害の人が一緒では難しいということではなく、「この人と、この人は一緒でもうまくやっていけるだろうか」という視点が重要である。
○医師は、障害の程度、等級を判定するが、その人の日常生活においてどのような困難があって、どのような援助が必要なのかを判断するのには、必ずしも最適な人ではない。医師が診る「重度」と、我々が感じる「重度」では程度が違う。
○50人、100人の単位でまとめてお金が出る入所施設では、少々のずれがあってもその中で対応できた。
○しかし一方、「地域」という視点で考えるなら、「この人にはどのようなサービスの提供が適当か」ということがポイントとなってくることから、判断を間違えると適正なサービスを提供できないということになる。この人にとってはどのようなサービスが必要なのかをいかに判定するのかということが、これからの重要事項になると思う。
○グループホームにおける生活は、確かにグループでの生活という面もあるが、それは次第に一人一人の生活になってくる。「グループ」の生活ではなく、「個人」の生活がそれぞれ独立して集まったものがグループホームである。
○一緒に活動するのがよいのか、バラバラの方がよいのかは、そのグループホームで生活している人たち次第である。「グループホームはみんなで支え合う場所だ」と決めつけては欲しくない。両方のタイプがあって良いと思う。
○5人程度が互いのことが視野に入る、あるいは生活の方法を自分たちで判断できる最大の単位であると思う。ここでは、入浴する順番であるとか、誰と一緒に入るのかということは5人の話し合いで決めている。
○週に1回は全員で集まって、連絡調整を行う場を持っている。買い物に行きたい日はいつであるとか、掃除をしたい日の希望はいつであるとを話合って調整している。
○入居者は居室において何かあった際には、ボタン式の送信機、あるいは内線で職員に連絡できるようになっている。

【食費、共用費等】
○食費は朝食で1食あたり200円、夕食は500円。
○電気代は全体で8万円程度。
○共用の水道光熱費は月あたりの金額を職員を合わせて6人で割っている。各居室の分は小メーターが付いていて、各入居者の負担となる。
○居室の広さは12〜15?u。物を置いて6畳分を確保できるスペース。


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