日本財団 図書館


知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒアリング記録

根来 正博氏(福祉施設「このみ」)

レスピット・ケアーサービスただいま実践中!
〜ファミリーサポートとしてのレスパイト・サービス〜 NO.4

質疑応答

(質問)
登録料の他に利用するときに利用者負担はあるのですか?

(答え)
東京都の介護人制度が利用できる場合、一日8時間相当で6,920円です。それだけでは一日一泊での料金には不足しますので、宿泊した場合の費用として4,800円頂いています。制度が適用されない場合、理由で当てはまらない場合は一時間840円頂いています。ですから一日24時間いた場合、840×24で、20,160円頂いています。利用理由が当てはまる場合でも日数制限により制度が使えない場合があります。この場合は一時間600円となります。
家庭負担が適切かといわれると、負担はかなり高いのではないかと感じているものですから、行政に負担を軽減する為の補助を要求しており、利用者負担を少なくしたいと思っています。
また、食費や交通費おやつなどの実費分はいただいています。

(質問)
利用者側と介護側との対応は1対1なのでしょうか?(状況によると思いますが)
(答え)
そうです。時には1対2になることもありますが、なるべく1対1になれるような待遇を考えています。

(質問)
レスパイト・サービスの範囲。親の養育、育児放棄にならないための方策。
(答え)
ファミリーサポートを充分に説明し切れなかったのですが、ファミリーサポートの概念の中では幼児期の親の養育訓練のようなものをファミリーサポートの一つにおいていますので、レスパイト・サービス事業だけが一本で成り立っているというようには、自分としては考えていないわけです。レスパイト・サービスが育児放棄にならないように対応策を考えるということではなく、ファミリーサポートのサービスの中で養育能力に欠ける親のサポートをどうするのかと言うことを考えていく必要があると思っています。
基本としては利用回数などは利用者の主体性に任せるべきだと思います。使い過ぎてしまう人など基本からはみ出てしまう人がいるからと枠を持ってしまうことは、例えば幼児家庭では月に3回で小学生からは5回とか制限を設けるとすると家庭状況にはそぐわない基準ですから必ず不都合が生じてくるわけです。しかしそのことに気付かずに枠を持つ方向できらに考えを進めると次には障害の枠で括りたくなってしまうのです。そうして複雑な枠で隘路に陥ってしまうわけです。
常に家庭を主体にして全体を見渡して行く必要があると思います。育児放棄になるという問題は幼児期の親の養育訓練と言うことで、幼児の通園施設並びに教育そしてファミリーサポートのサービスそう言ったトータルの中で考えてい必要があると思います。このサービスはあくまでも道具として利用されるべきです。背中を痒いていて、痒いところに手が届かないときに孫の手があると快適になるような感じですね。人にやって貰えればもっといいですけど、でも孫の手でも充分快適です。利用する人に主体性がある道具としてのサービスこれが今最も重要なのではないでしょうか。レスパイト・サービスがあるから家族が駄目になるなどと思っている人は、障害のある人とその家族には常に苦労が必要で、究極的には山奥で電気・ガス・水道すべてをたった自給自足の原始生活が理想とでも思っているのでしょう。
サービスの存在が悪いと言うことになると、生活保護が抱えやすい問題と同じで、必要な人に必要な援助が届かなくなると思います。

(質問)
発足当初の状況、利用者の確保、財政事情、主に人件費。
(答え)
利用者の確保につきましては先ほど言いましたように口コミで利用した人が「いいよ」と言ってくれて、段々広がっていくと言うのを期待しながら、実際には初めてお預かりして15分後に『どうもあなたではたよりなくて預けられないわ。』と迎えに来られてしまった経験もあるのですが…。段々信用を得てきたのではないかなと思っています。
財政事情、主に人件費ですが、最初の2年くらいは年収10万円位でした。夜のアルバイトを自分がして、もう一人が新聞配達をして…、魚屋さんや八百屋さんも軌道に乗るまでは商品を食べながらやって行くということもあるようですから、自分たちは体が資本でしたから、よそで働くしかないかなと、始めた以上はしょうがないかなと思ってやっていました。
しかし、これから始める人達には給料がきちんと支払われるような制度を整えていかなければならないと思います。

(質問)
このみの名前の意味は?
(答え)
このみの名前の意味は、最初は「木の実」という漢字を当てて「このみ」といっていました。言い出しっぺの通園施設の職員がつけたのですが、その方が関わったお子さんが7〜8才位までしか生きられないと言う難しい病気の子でNHKでみんなの歌と言う番組があってその中で『小さな木の実』という歌があったのですが、その子がその歌が好きでそれで「このみ」とつけたそうです。そして漢字だと少しイメージが堅いので後から平仮名でこのみにしました。最近では利用する人がサービスを選べる選択肢を意味する「お好み」という意味なのかと問われることもあり、それは見識があるなと思っていますが、本当の経緯は説明したようなことです。

(質問)
預かった子供の様子は親に知らせるのですか?
(答え)
基本的には、口頭で伝えています。一日の様子をまとめたケース記録と内部のケース会議の記録とは登録用紙にまとめてファィルします。また何か事故があった場合や怪我をさせた場合などは事故報告書に残します。去年の夏ですが全くこちらのミスで、お子さんを見失ってしまったことがあります。わずかの間にいなくなり見失ってしまって自力で探せる範囲内では見付けられそうもなかったので、警察に捜索をお願いしたら別の交番で保護されていました。車通りの激しい道を、車を後にしたがえて、縦にずがずが歩いているところをパトカーに保護されたのです。
どうして居なくなってしまったのかなどをまとめて親御さんに報告しました。そうしましたらお母さんはひどく勘違いされて「うちの子がご迷惑をおかけして問題を起こしてすいません。これに懲りずにまたお願いします。」と何か包んでよこそうとされて…。
こちらは仕事として、プロが素人以下のことをしてしまって恥じ入っているところでしたから、そんな申出があって本当に困ってしまったわけです。

(質問)
強度行動障害やそれに近い状態の子供でも預かってくれるのでしょうか?
(答え)
そういう子でもと言うよりは、そう言う子だからこそ預かることのほうが多いですね。さっき言ったようにこだわりがある人が思春期に、特に親子だからこそ感情がもつれてしまって家庭内暴力的な状況になってしまうことがあります。直接家族に暴力を振るうことはほとんどありません。家中に絵の具を撒き散らしてしまうとか、夜中に団地の5階で叫んでしまうとか、二階の窓から家具を投げてしまうとか、家族だけでは手に負えなくなってしまったときにとりあえず駆け付けます。このみの関わりは対処療法でしかないと思います。問題を解決するには、根っこの所では基本的な生活パターンから全て関わって見ていかなければならないと思いますが、そこまでの能力は自分たちにはありません。ですから、問題解決の為には親とこのみだけでなく、関わる学校や作業所の職員などが一堂に会する機会を持って、そこの場でこれからどうするか方針を決めます。その中で基本的には日常の関わりを持つ家庭と学校に頑張ってもらう方向で話し合います。このみの受け皿は柔軟ですから、ともすると問題の全部を請け負い兼ねない方向に話しが進んでしまいます。(しかし、このみの援助は側面からの援助ですし、一時的な対応ですから根本的な関わりから取り組んで全てを組み立て直す方向では働けないのです。このみのスタンスで『対処療法だからこそ意味がある』場面に関わって行きます。例えば山崎のスイスロールが食べたくて、スーパー山崎にいった家族から「スイスロール売り切れだというのを聞き入れてくれずに、棚の前から動かないで困っているんです。」と留守番電話に夜中の12時すぎに連絡が入ります。その山崎は12時までの営業ですから、他に客がいない店でお父さんと本人とお店の人がすくんでしまっているわけです。自分達が行って「もう帰ろうか。」と声を掛けると本人も「帰ろうか。」なんてすたすた帰りはじめるんです。相撲に例えると勝負の付かない状態に水を差す行司のようなものかなと思っています。

(質問)
本人の日常生活にそった対応が重要であると言うことで、一口に日常と言っても色々な要素があると思いますが、何を持って日常生活の延長とするか教えて欲しいと思います。
(答え)
援助を供給する側から日常生活と言うものを定義しないほうが良いと思います。家族のほうから預かってもらっている間でもこんな生活をしてほしいという要望に応えることが必要かと思います。それが、家族の緊急状況であるにしても、親の都合であるにしても家族以外と生活を営む場面で、どんな生活を希望するのか、これが基本になると思います。
自分でその希望を言える人にはその希望に沿ったところで、自分で明らかにできない人には家族と話し合って決めています。このみの援助は側面からの一時的な対応ですから、いずれは家庭での生活、…これが日常の生活と押さえていますが…、に戻るわけです。その時のことを想定して援助内容を決めています。
供給する側が援助内容を決めてそれに利用者側が従うという今までの価値観をひっくり返す意味で、本人の日常生活の継続を保障すると表現している事を理解してください。このみ以外にもレスパイト・サービスを行う事業所がいくつか行われ始めているのですが、それぞれの事業所を立ちあげる原動力は、素晴らしい理念に裏打ちされた長期構想に乗っとった事業計画ではありません。閉ざされた環境で、そこそこの生活での我慢を余儀無く強いられている障害のある人とその家族の状態を何とかしたいといったものです。
一番の原動力は今まで障害を持っていらっしゃる方の地域での生活を何とか支えようとして来られた親御さんだと思います。養護学校が義務化されて以降、地域での生活をえらんできた方たちの親が、ずっと踏ん張って来た。そして高齢になってきて段々しんどくなってきた。いつまで親が踏ん張ればいいんだという声が多くなってきていると思います。安心感の先取りでさっさと入所施設に子供を託してしまう仲間がいても、私はまだ頑張れるという人は、まあ良いのですが…。入りたくても入れないし、もう親の頑張りだけでは立ち行かないと言う人も相当数いて、事態は深刻です。もう、地域で頑張りたくても頑張れないと、本当に息詰まっている状況ではレスパイトサービスではもう追い付かないと思いますが……。そう言った背景を考えると原動力となるエネルギーは相当溜っていると思います。

(質問)
職員の待遇は一生続けられるものですか。
(答え)
このみの現在の給料は市職員の高卒のラインの年齢給を支払っています。これは利用家庭からは、そこそこもらっていますので、行政からの補助をもう少し頂かないと、若いうちは何とかなる額を出せていると思いますが、30才すぎるとなかなか苦しい額だと思います。
このみの待遇が全ての基準というわけではありませんから、今後、民間法人並み、公務員並みということでレスパイト・サービスに関わる職員の待遇を考えていかなければならないと思います。
今は、とりあえず何とかしなければという思いに付き動かされて従事している人がこの分野の事業を開拓している状態ですから、待遇面が若干劣っているのはやむをえないと思いますが、職員の処遇の向上がなければサービスの向上もないと思います。私たちの経験上実際にあった話ですが「生活するのにやっとの職員に子供を預けて、私だけ旅行には行けないわ。」という風に関係が行き詰まってしまうと思います。

(質問)
このシステムをうまく機能させるにはどうしたら良いですか。
(答え)
それぞれのサービスが、緊急一時保護、ショートステイ、ホームヘルパー、利用する人は一緒なのですが窓口が違っていたり、関わる職員の相互の交流がなかったりで、それぞれが枠を持っている範囲だけしか関わらなくて、残された問題は関係ないという事が既存制度の問題であると思います。地域の様々な制度の関連性を整理して適切なサービスを利用する人に示す役割としてソーシャルワークが必要になると思うのですが、実際に地域では福祉事務所のケースワーカーがいたり、精神薄弱者・身体障害者相談員、民生委員などの相談員制度があります。窓口はそれぞれに別れているのに結び付きは弱い。こういうものを一つに束ねて行き相互の連絡、横のつながりをつけていくことがシステムとして機能していくことになると思うのですが、なかなか現実
化して行かない。公的機関の担当者は古い価値観に縛られていますから、なかなかその価値観をひっくり返すのは難しいことだと思いますが、やはり利用する人が声を大にして言って行くしかないと思います。
また私たちのように気付いた立場の人間が、何もかも自分たちのところで自己完結させてしまうのではなく、地域の人達と一緒にやっていく場を作っていくしかないと思います。今、自分たちも福祉事務所のケースワーカーにきてもらって作業所の職員にきてもらって学校の先生にきてもらって、一緒に問題を共有する場を意識的に作ろうとしています。少ない実践ですので広めていくことはなかなか難しいかなと思っていますが…。
地域の中にきちんと家庭をバックアップする相談窓口付きの援助機能があって、相談も援助も一元化された中で行われる。そのような家庭を援護する体制が充実していれば家族も家庭機能の中でその力を充分に発揮できる。家族が機能を及ぼすことができなくなった時にも、家庭のバックアップとして働いていた一元化された機能は、社会資源として機能していくだろうと思っています。

(質問)
これからのレスパイトサービスの方向性はどうなるのでしょうか?
(答え)
東京都の場合、このみの出した『緊急一時保護事業を民間でも行えるように補助体系の新規創設を』という請願が議会で採択された後、福祉局に掛合いにいったところ『大事な事業だから民間には任せられない。』と返事をもらったという話しを先ほどしました。
『そんなに大事ならきちんとして欲しい。』と返すしかなかったのです。その後都の福祉局としても具体的に検討を進めました。その上で地域福祉センター…身体障害者福祉法のB型館…で行われる緊急一時保護事業を泊まりも行うことにして、ショートスティ事業と名称を変え補助金を付けセンターの必須事業にまで格上げしました。
受け皿としては一応のめどを得ることができました。これはハード・ソフトで言えばハード面です。しかしソフトの方が非常に心配です。現在、福祉センターで行われている緊急一時保護事業のほとんどが家政婦協会に委託して家政婦の方に介護をお願いしています。この方法ですと介護にあたる人が100%女性の方ですから、見れる人と見れない人が自ずと分かれてきてしまうのです。特に成人の男性が難しい。ですからハードをソフトで良くするためには、センターの職員が介護にあたる、これを基本におくわけです。そして足りない所を家政婦協会や親の相互扶助など地域の社会資源を活用して行く。核となるセンターの働きがあればこれらの資源は活性化されるはずです。
基礎的な自治体がこれら在宅支援の中核を担う組織に責任を持つということは、大変重要なことです。家族支援が基礎的な自治体による住民サービスとして行われるようになれば、事は障害児・者だけの問題ではなくなるわけです。老人では在宅支援センターと言う名称で既に行われていますが、病弱の方の家庭、母子・父子家庭、支援を求める家庭は、地域には沢山いらっしゃるからです。逆に言えば、住民サービスとして制度化を要求していく事で多くの仲間を地域に見出だすことができ、そのことがより多くの地域の方に理解をえることになるのではと思います。

(質問)
私は病院のソーシャルワーカーですが、横浜市では「横浜プラン」の中で緊急一時保護が医療的対応が必要ない場合でも施設が緊急がどうしても満床だということでうちの病院に来てしまうのです。その解消と言う事で「ゆめはまプラン」でショートステイを6か所作るのですが、単に横浜を6ブロックに分けて、一か所そのショートステイをおき20人をみるのですが、内容としてレスパイト的なこととして生活リズムを崩さないで、そこの職員が預けた時に学校に行かせるなり、地域作業所に行かせるという事がいったい可能なのか。まだ計画だけなので詳細にわたっての内容はないのですが、私の考えではショートステイセンターの枝葉の部分でこのみのような地域に根ざしたものがいくつかショートステイセンターのしたに必要だろうと考えているのです。その場合に一番問題なのは緊急一時で相談にきた時にコンビニエントする、そこにコーディネイトする人が要る。実際下の地域の小さい部分で手に負えない部分にセンターとして協力してなんとかレスパイトしていくなり緊急一時保護していくなりそういう機能が絶対必要だと思っているのですが。
(答え)
横浜のように大きな街ですと、責任所在の中核となる機能、木に例えると幹の部分がより太いものを要求されると言うことでのショートステイセンターの役割が、木でもただ幹が太いだけでは潤いがないと言う事で枝葉が必要となる、それが小回りが利く援助と言うことでこのみのようなブランチを持ちたいと言う事だと思います。援助は身近にあればあるほど利用しやすいと言う原則を持っていますが、それを安定させるためにはという考えから、中核となるセンターの働きと相互扶助などの身近な援助を、幹と枝葉に例えて『大きな樹安心理論』と言う形で示してみたわけです。相互扶助だけでは不安定。センターの働きは大雑把。互いの弱点を補い、できることをできる人が互いに支え補い合うと言うのが地域のルールのはずですから、お互いに責任転嫁をせずに事が運ぶようになればうまくいくのではないでしょうか。実際にはこの役割分担をうまく振り分けるのが一番難しい。柔軟なサービスを行えば行うほど、皆が問題を放り込むブラックホールになり兼ねないからです。

最後に一つお話しをさせてください。この10月1日から東中野の駅前のビルの3階で日本障害者芸術文化協会が発足します。これは障害のある人が作った芸術作品が、それぞれの施設や家庭で日の目を見ずに片隅におかれている。これを何とか社会にネットワークさせる方法がないだろうかと言うことで始まった組織です。まだ実際には機能していないのですが、閉ざされている人達の芸術を世の中に開いていくための活動をしていきたいと準備を進めています。僕がこの活動に関わるきっかけはいくつかありまして、その一つに、自分がこの仕事に関わるきっかけとなったある人間との出会いと言うものがあるのですが、その人がかなり中心的に関わっていると言う事があります。松兼功といいます。最近出版した本には「障害者に迷惑な社会」と言うものがあります。彼と17才の時出会ったのが障害のある人のことに関心を持つきっかけになったのです。
日本障害者芸術文化協会と「障害者に迷惑な社会」という本、よろしければ関心をお寄せください。


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