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知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒアリング記録

曽根 直樹氏(福)昴 FSC昴

社会福祉法人昴 FSC昴 レスパイトサービス資料

1. 運営主体
◆経   営 社会福祉法人昴
◆実施事業所 ファミリーサポートセンター昴

2. レスパイトサービス開始までの経緯

社会福祉法人昴が運営する障害をもつ子どもの通園施設「ハローキッズ」では、長年「お泊まり保育」と称して、1年に1泊、通園児を保護者から離して、職員と子どもたちだけで宿泊するという行事を続けてきた。元々の主旨としては、子どもの生活経験の広がりをねらいとしたものであったが、保護者にとっては、日頃の子どもの介護から解放されて、一晩自由に過ごせる日として、大変喜ばれていた。保護者の間からは「お泊まり保育」の回数を増やしてほしいという要望もでるようになり、保護者が、自分の休養を確保するためのサービスを必要としていることがわかった。
そこで、欧米の福祉先進国では既に行われていた「レスパイトサービス」を平成4年6月から開始した。

3. レスパイトサービスを行ってわかったこと
(1)ニードの大きさ
当初定員50名でスターとしようとしたところ、62名の会員希望者が集まり、ニードの大きさを痛感した。その後も年を追う毎に会員が増加した。また、県内外からの問い合わせも増え、特に県内の市町村からは、利用希望者の切実な問い合わせも多い。これに答えるためには、現状の受益者負担のみに頼る運営では不可能であり、公的な補助を含めた運営基盤の安定が不可欠である。

(2)ニードの内容
「2. 開始までの経緯」にもあるように、当初運営者側のニード予想としては、保護者の息抜きのための宿泊利用が中心になるのではないかと考えていた。確かに、それに合致した利用も多いが、それと同じぐらい、必要な時間だけ日帰りで預けるという利用の仕方も多く、「普段の生活の中で、ちょっとした用事でも気軽に預けられる場所」としての必要性も高いことが分かってきた。また、送迎サービスの利用も増えており、単に預かればよいということではなく、家庭が必要としているサービスを柔軟に提供できることが求められている。
また、利用時間中の子どもへのサービス内容も、保護者の関心が高く、ただ預かってくれたから助かったというだけでなく、利用時間中子どもが楽しく過ごせたかどうかは、保護者のレスパイトサービスへの評価として重要な項目となっている。

4. 平成4年度の運営状況

(1)年度の特徴
レスパイトサービス開設の年であり、6月からサービスを開始した。当初定員50名と考えていたが、予想外の会員希望者が集まり、会員62名でのスタートとなった。
会員登録者は、年会費30,000円を納めることで、年間7日間(1泊・16時間又は、日帰り8時間で1日)の利用が可能とした。宿泊の場合午後5時〜翌朝9時まで、日帰りの場合午前9時から午後5時までという規定時間内であれば、その都度の利用料は無料で、規定時間を超えた場合、延長利用料として1時間600円の負担とした。(P.2右上表参照)
なお、1日の利用定員は、日帰り3人、宿泊2人までとした。



(2)利用状況
平成4年度の利用実績は下表の通りで、年間利用件数は155件、内訳は日帰り74件、宿泊71件で、日帰り、宿泊の割合が半々であった(P.3上グラフ参照)。平均利用時間は日帰り7.4時間、宿泊23.9時間であった。月別の利用状況で見ると(P.3下グラフ参照)、夏休み、冬休みの学校の長期休業期間に利用が多く、利用者の多くが普段の生活の日常的な介護に対する援助というよりは、夏休みや冬休みなど、子どもが家庭にいる時間が増加する特別な期間の対策として利用していたことが推測される。この原因としては、年間の利用権が7日と少ないために、「ちょっとの用事ではもったいなくて使えない」という心理が利用者に働いていたため、家庭内で最も問題とな「夏休み、冬休み対策」に利用の重点が置かれていたことが考えられる。また、この期間に宿泊利用が増加しているのは、家族旅行の間預けるという利用の仕方が多かったためであった。また、送迎の利用は少なく、レスパイトサービスの実施場所まで保護者が送迎するという利用の仕方がほとんどであった。
会員の年間利用権7日間の消化状況(P.3中グラフ参照)では、1回でも使った会員は全体の66%にのぼるが、1回も使わなかった会員も23%あり、実際にサービスを使う必要がある層と、いざというときに預けられるという安心感を必要としている層があることがわかった。












5. 平成5年度の運営状況

(1)年度の特徴
レスパイトサービスも2年目に入り、会員数は前年度比20%増と大きな伸びを示した。しかし、スタッフは前年度通り1人のため、年間に受け入れられる件数は変わらないことから、会員1人の年間利用権を7日から6日へと1日減らすことで、会員全体の持ち日数を前年度と同じ水準にし対応することにした。その代わり年会費を1万円減額し、持ち日数を減らしたことと、会費負担とのバランスをとることにした。
また、この年度より利用1時間当たり300円という利用料制を導入することにした。これは、前年度の実績から、会員の中にはレスパイトナービスを「いざというときの保険」として考えている層が相当数いることがわかったため、サービスの維持経費に対する負担割合を差別化し、会費は「基本料金」、実際に利用することで負担の割合を増やしてもらおうと考えたからである。また、夏休みに利用が集中し、職員の負担が大きすぎたため、お盆の間は休業とした。(P.4右上表参照)



(2)利用状況
平成5年度の利用状況は下表の通りで、年間利用件数は194件と25%増加した。しかし、利用の内訳は日帰り利用に大きく傾く結果となった。日帰り利用は143件と、前年度比88%増なのに対し、宿泊利用は51件と、前年度比28%減となったのである。(P.5上グラフ参照)
この原因として考えられることは、一つは昨年度最も宿泊利用が多かったお盆期間中を休みにしたこと、もう一つは利用料制の導入で、長時間使えばそれだけ利用料負担が増えるため、短時間の日帰り利用が増えたということである。
1件当たりの平均利用時間も、日帰り6.6時間、宿泊21.5時間と、前年度よりも平均で1〜2時間減少している。月別の利用状況では、利用のピークはやはり夏休み、冬休み期間だが、昨年度よりは全体になだらかになっており、特に宿泊利用については月毎に平均して利用が散らばっている。利用者もレスパイトサービスの使い方を「夏休み、冬休み対策重視」から、普段の生活の中の日常的な介護に対する援助という使い方に変えてきていることが考えられる。
また、大きな変化としては送迎利用の増加が挙げられる。学校等への送迎は前年度の3倍、自宅への送迎も前年度0件から、一気に44件に増加している。送迎に対して便利なサービスという認識が高まってきたといえる。
会員権の消化状況では、全体の消化回数は増えたものの、利用なしの層も増えて36%となった。これも利用料












6. 平成6年度の運営状況

(1)年度の特徴
今年度の運営上の大きな特徴は、スタッフが2名に増えたことで、それに併せて、今まで以上に利用方法に柔軟性を持たせることができるようになったことにある。具体的には、会員の範囲を「ハローキッズ」在・卒園生に限定していたのを、地元である東松山市については、誰でも登録できるようにしたこと。また、会員の利用権を日にち単位から時間単位とし、年間120時間までは1時間300円で利用できるようにし、これによって、極端な場合、1日1時間ずつ120日間にわたって利用するということも可能になったこと。120時間以上については、1時間600円で利用可能としたので、事実上時間制限を撤廃したこと。前年度行った「お盆休み」をなくし、正月以外、1年中利用可能にしたこと。ニードの増えた自宅への送迎サービスの利用料を従来の半額(1回500円)とした
こと、などである。
しかし、スタッフを1名増やすために、会費の値上げをしなければならず、年会費42,000円を月額3,500円ずつの銀行自動引き落としで支払いをしてもらうことにした。
会員数は、会費の値上げが影響してか、低い伸びにとどまり、7月末現在78人。「ハローキッズ」在・卒園生以外の東松山市在住の人については、現在2人が会員になっている。市内在住者へのアナウンスは、東松山市の手をつなぐ親の会を通じて行う計画で、8月中の親の会役員会に出席し、説明をさせていただくことになっているので、その後さらに会員数が増加する事が考えられる。



(2)利用状況
会員利用権が時間単位になったことで会員から「ちょっとした用事のときも使いやすい」と好評である。実際に月平均の利用件数も前年度の3倍以上の51件になっている。
特に著しい変化は、日帰り利用と(P.7上グラフ参照)、送迎利用の増加である。日帰り利用は月平均45件で、昨年度の4倍にものぼっている。送迎に至っては、月平均65件。昨年度の6倍という利用の高さである。日帰り利用の内容で見ると、1件当たりの平均利用時間は3.4時間となっており、昨年度の約半分の時間となっている。学校から自宅までの送迎のみの利用ということも多い。宿泊件数は、まだ夏休み・冬休みを経過していないので何ともいえないが、今のところ例年並の利用件数となっている。
年間の利用可能日数が6日や7日に限定されていては、利用者側が気軽に使うということができず、レスパイトサービスの本当のニードが表れていなかったようだが、今年度は、使いやすさに支えられて、利用者が持っている細かな部分も含めた本当のニードが姿を現してきたように思える。









7. 3年間の比較(1)−日帰り利用−

(1)月平均利用件数の推移
日帰り利用の月平均利用件数は、平成6年度に高い伸び率を示している(P.8下グラフ参照)これは、前項でも触れたとおり、レスパイトサービスの年間利用件を日数単位から時間単位に変えたことが大きく影響している。日数単位では、1時間利用しただけでも消化日数としては1日とカウントされてしまうが、時間単位だと消化時間は1時間だけで済むという利用者側のメリットが生まれたからであろう。これによって、利用者は、自分が必要とするときに、必要とするだけのサービスを得ることができるようになったといえる。



(2)1件当たりの利用時間の推移
P.9のグラフでわかるとおり、平成4年度、5年度は、1件の利用時間が8時間当たりをピークとしているのに対し、平成6年度では、1件当たり1時間から4時間という、短時間の利用に集中している。これも上で述べたように、年間利用権が時間単位になったことで、必要な時間だけレスパイトサービスを使うという利用の仕方がはっきりしてきたことの現れであろう。平成4年度、5年度は、日帰り利用では9時から5時までの8時間で1日消化という方式だったので、少ない利用権をフルに利用しようとして、1件当たりの利用時間が8時間のところにピークがきたものと考えられる。










8. 3年間の比較(2)−宿泊利用−

(1)月平均利用件数の推移
宿泊利用については、特筆する大きな変化は、この3年間では見つからない。月平均の利用件数もほぼ同じ水準で推移している。ただし、平成6年度については、まだ夏休み、冬休みを経過していないので、結論を出すのは早すぎる。



(2)1件当たりの連続宿泊数
P.11のグラフのとおり、1回の利用で連続何泊宿泊するのかということについては、1番多いのが1泊、次いで大きく差ができて2泊以上という結果となっている。これについても3年間の大きな差は見つけられない。
しかし、日帰り利用の例でも分かるとおり、利用の状況は、サービスの規定に大きく左右されるものであるため、例えば、仮に1人年間100泊可能という状況があった場合、宿泊利用の状態に影響が出てくることは十分予想できることである。










9. 3年間の比較(3)−日帰り利用の曜日別利用状況−

(1)平成4年度(P.7上のグラフ参照)
日帰り利用は月曜日に多く、次いで日曜日、後はほぼ平均している状況であった。曜日に偏りがある原因は不明。



(2)平成5年度(P.7中のグラフ参照)
日曜日に利用が多かった。これは、この年度は全体に宿泊利用が減り、日帰り利用が増えた年で、利用料の導入により、4年度までは宿泊で利用していた人が、日帰りで抑えるケースが出てきたためと推測される。全体の日帰り利用件数も上昇している。



(3)平成6年度(P.7下のグラフ参照)
前2年とは違い、日曜日が最も利用が少なくなっている。これは、この年度から利用権が時間単位の計算になったため、今まで使いたくても我慢していた「日中のちょっとした用事」のときにレスパイトサービスを利用するケースが増えたためと考えられる。



(4)4〜6年度の平均(P.6下のグラフ参照)
3年間の平均では、曜日毎の利用の多少の差はほとんどなくなっている。



10. 3年間の比較(4)−宿泊利用の曜日別利用状況−

(1)平成4年度(P.8上のグラフ参照)
宿泊利用は日曜日が最も多く、後の曜日はほぼ平均している。これは、日曜日に子どもを預けて息抜きをするという利用の仕方が多かったためである。



(2)平成5年度(P.8中のグラフ参照)
平成5年度は、日曜日の宿泊が0であるが、これは、前年度、スタッフの休日がほとんど取れなかったことから、この年度は第1・第3日曜日は日帰り利用のみとしたため、その影響があったものと思われる。利用が多かったのは木・金・土の週末であった。



(3)平成6年度(P.8下のグラフ参照)
3ヵ月間のデータで、まだ傾向は分からないが、平成5年度のように宿泊利用の可能な日に制限を設けなかったため、日曜日の利用もある。ここでも、利用の傾向は、サービスの規定に大きく影響されることがわかる。



(4)4〜6年度の平均(P.7下のグラフ参照)
3年間の平均では、週の半ばが宿泊利用は少なく、後はほぼ平均化している。



11. 3年間の比較(5)−送迎利用−

(1)送迎サービスの意義
保護者が午前中から夕方まで用事を足したい場合、学校等の迎えが途中に挟まることで、用事の中断を余儀なくされることになる。たとえレスパイトサービスがあったとしても、そこに送迎サービスがなければ、結局は保護者はその用事を断念せざるを得なくなり、「使えない」サービスとなってしまう。
また、レスパイトサービスの場所まで往復の距離が長い利用者や、保護者の病気などで一時的に送迎が不可能な利用者の場合、利用がしにくくなる場合が考えられる。そうしたことを是正するためにも、送迎サービスは必要になる。

(2)月平均利用件数の推移
レスパイトサービス利用時間中の学校等への送迎、自宅への送迎ともに、平成6年度に急増している。原因の一つには、やはり利用権が時間単位になって日帰り利用が増えたことが考えられる。「午後の養護学校の迎えから夕方5時まで」というような利用が増えたことと、保護者の事情で「学校から自宅までの送迎だけを頼みたい」という利用が増えたことが、送迎利用の増加の要因である。



12. レスパイトサービスの会員登録率

通園施設「ハローキッズ」の在・卒園生は約240名で、そのうちレスパイトサービス会員登録者は平成4年度62人、平成5年度75人、平成6年度78人であった。母集団に対する会員登録率はおよそ30%(P.18上のグラフ参照)となる。また、年齢別に見ると、在・卒園生の内でも比較的低年齢層の方が会員登録率が高い傾向にある(P.18下のグラフ参照)。この原因としては、低年齢の子どもは兄弟もまだ小さく、手が掛かるため、レスパイトナービスの必要度が高い。保護者の意識として、若い年齢層の方が「有料サービス」「子どもを預ける」「自分の時間を楽しむ」ということに対して抵抗感が少ない。などが考えられるが、さらにレスパイトのスタッフと直接顔馴染みであることなども影響していると考えられる。





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