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知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒアリング記録

根来 正博氏(福祉施設「このみ」)

出席者 (財)日本船舶振興会:菅原係長、山口
     (株)福祉開発研究所:宮森、小林
場 所 福祉施設「このみ」

【サービス提供までの流れ】

1. 事前把握
?@「登録用紙」による事前把握…事前把握の柱となる。

?A家庭訪問による把握    …「登録用紙」だけではつかみきれない本人の様子を把握するために行う。

2. 事前体験
○特別な場ではなく、日常の中の一部として捉えられるように事前に慣れるようにする。
これができた後は、電話1本でサービスの申込を受け付ける。

3. 受 付
?@電話を受けて受付用紙に記入
?A受け入れ可能か、職員の体制表で出勤状況と照合する。

4. 依頼の理由を聞く
○依頼の理由に制限はないが、受付の時に依頼の理由を聞く。
?@キャパシティがいっぱいになったとき、緊急性(優先順位)の高いものから受け入れる。
(緊急性が高い場合は、その日の依頼でも応じられるようにしている)
?A介護人制度(理由によって、1日預かることに行政から謝金が出る制度。元々相互扶助を前提に、育成会が働きかけてできた制度。)を活用するため。

○平成6年度登録状況
・92家庭、利用者95人(このうち成人の割合は2割以上)
・年齢幅4歳〜31歳

○親のニーズの変化
・「緊急一時保護」から「日常的な援助」に対してのニーズが出てきた。

【利用者の内訳】

○「このみ」の利用者の障害の程度は、知的障害児(者)では、2度の障害を持つ人が多い。重複した障害を持つ人等、全体として重度の障害を持つ人が6割以上を占めている。
○東久留米市では障害者手帳の交付を受けている児童は200名強、成人が2,000人程度だが、この中で、「このみ」を利用しているのが100家庭前後である。

【サービス依頼の理由】

○サービスの依頼がなされる理由を大別すると以下の3つに分けられる。
?@緊急一時保護
ex.母親の病気、けが等突発的な事由によるもの。葬儀等もこれに分類される。
?A介護を行う人の生活上必要な時間の保証
ex.家族、特に兄弟のための時間を作りたい。
?B日常的な介護困難に対する一時的対応
ex.親の高齢化によって、これまで日常的にできていたこと(朝の散歩、入浴等)が困難になった場合。

【援助を行う上での基本】

?@本人の日常生活に沿った対応を行い、生活の質を大きく変化させない。
ex.登録用紙に家から通勤、通学先へ日常使っている道の地図を書いてもらう。
1日の生活リズム(起床、入浴、食事)が日常行っているように継続できるようにすることを基本においている。

?A家族の主体的な関わりを損ねる援助はしない。
○「このみ」に全てまかせるのではなく、どの部分が大変で援助を求めたいのか、何をして欲しいのか明らかにしてもらう。
ex.公園に散歩に行って欲しい。夏であればプールに連れていって欲しい等。

?B本人が家族の一員からはずれるような援助はしない。
○既存の制度は、本人を家族から引き離して預かるシステムであった。
ex.葬儀に、家族の一員として参列し、困難なところを「このみ」が援助する。
焼香や出棺等の場面では一緒に参列し、読経が長く続く場合には控え室に一緒にいるなどの援助。結婚式などの場合も同様の援助を行う。
兄弟の誕生会を準備する間預かってもらって、本番に一緒に参加する。
○複数の選択肢の中の一つ方法として「このみ」を捉えて欲しい。

【父母会の活用】
○「利用する側」と「供給する側」の上下関係(常にこのみにお伺いをたてるような)の弊害を弱めることを目的に、「このみ」の活動を始めてから7年目に父母会を組織化した。
○地区別に母親たちが懇談会を開催。
○親の年齢構成は30代から60代。
○「子育てについて」、「家族関係の保ち方とか父親にどう協力してもらうか」等について年輩の母親たちに話をしてもらったり、また、年輩の母親たちは子どもを預けることに気が引ける面があって、「人に預けて自分が楽しむなんて」という気持ちが非常に強くある。これに対して、若い母親たちから「もっと気軽に預ければいいのに」という話をしてもらったりして、父母会をうまく活用している。

○父母会は話し合うだけの場ではなくて、行事を年に何回か行っている。夏に夕涼み会としてソーメン流しや花火大会、冬はクリスマス会や餅つき大会等を企画している。何かあったら預けるという関わりだけではなく、積極的に行事などを行って、楽しい場面を作って、外に出る機会や母親同士の交流の場面を企画して、預かる側が待っているだけではないような関わり方を事前把握の一貫として行っている。

【レスパイトサービスの考え方】
○「レスパイトサービス」という言葉が日本の中で広まるまでは、このみとしては「緊急一時保護事業」と呼んでいた。しかし、利用する側から緊急性が高い場合でないと利用できないのかというように言葉に引きずられてしまうところがあったので、一時は「緊急一時保護事業」と「一時保護事業」というように呼んでいたが、ほとんど区別もないので定着はしなかった。それからしばらくして、「生活援護」という視点から考えて、「緊急一時保護」と「生活援護事業」と2つに分けて、「必要な時間の保証」と、「日常的な介護困難への一時対応」等の内容に分けた。

○「親の休息も付随してある」という価値観から「親が休息してもらうためのサービス」として、まず「緊急一時保護」で万一の状況に対する憂いを除いて、「時間の保証」によって日常的な躓きやすい部分を取り除いた上に「親の休息」がある。このためには、この2つは必要条件だと考えている。レスパイトサービスとはこの全部を含めた、対応として括っても構わないのではないかと考えている。

【送迎サービスについて】
○依頼の9割程度は「このみ」が依頼の場所−学校がほとんどであるが−へ迎えに行く。
それによって、本来、ここへ連れてくるために費やされる時間に、母親は用事を済ますことが出来る。
○また時には送迎だけということもある。たとえば、母親が出産を控えた、産前産後の約1ヶ月半程度は、母親が学校に迎えに行くことができないので、その際には作成してもらった地図等を活用して、送迎に関わっていく。
○基本的なコンセプトは、利用する人の主体性、つまり預ける親御さんたちの主体性と利用する本人の日常性と主体性が十分に発揮されれば「レスパイトサービス」は完成するのだと思う。その時に必要な援助、特に「移送サービス」等が日本の中ではまだまだ少ない状況である。
○今までの「ショートステイ」も「ホームヘルプサービス」も「移送サービス」も利用する人の主体性を十分に尊重しきれずに行きずまっている面があるので、「レスパイトサービス」はそのような価値観も含めたサービスとして主張して良いのではないかと思う。

【社会資源全体で支える地域生活】
○既存の社会資源、たとえば学校、通園施設、作業所等を含めて、そこで可能となる地域生活の支えは何であるのか、ということをみんなで持ち寄って考えていくことが必要である。
○柔軟に対応できる機関がないと何も始まらないということでは、逆にそれができた時には全てがそこに集中してしまうということになる。それでは、トランプのババの押しつけ合いのように障害を持つ人をやっかいな存在としてしまうことになるのではないか。
○「このみ」では、家庭から離れて、自立生活を擬似的に体験する「自立生活体験」のような活動を月に何回か行っている。この預かりは学童期の子どもについてがほとんどである。学校という安定的に通う場所があって、学童期の間は預かるという一つのモデルはまず作れたかと思う。
○いつでも子供を預かってくれるレスパイトナービスは、家族に安心感を与える。しかし母親が病気で学校までの送り迎えができないときには学校の先生が迎えに行くようなシステムがあれば、本人は学校に行くことができるわけである。既存の社会資源を使ってどのような援助ができるかというところまで掘り下げないと、地域における家庭生活の場は築ききれないのではないかと思う。

【「ファミリーサポート」の考え方】
○「ファミリーサポート」とは、ただ家族が困っているから援助するということではなくて、親が養育義務として働かなくてはいけない時期を過ぎたら、地域の社会資源で支えていくというように考えていくことである。常に親が頑張るという姿勢だけで成り立っていたのが今までの緊急一時保護ではないかと思う。
○1つの方法論としては、「生活支援センター」のような拠点となる介護のデリバリー機関があって、家族と暮らしている障害を持った本人の所にも、グループホームにも、一人で暮らしている人の所にも介護サービスが届くというシステムができれば、地域生活の可能性を広げることが出来る。
○「このみ」のような専門的に援助を行う機関が一ヶ所しかないと、そこの意向で利用者の生活が左右されてしまうという危険性が生じる。利用する人の立場から考えると、近隣の人にも頼めて、それがダメなら、このような専門機関に頼むというような、いろいろ段階別で援助を使い分けていくことができれば、本人のサービス利用に対する便宜性は非常に高まる。

【障害者福祉センター(B型)設置について】
○東久留米市に市立の障害者福祉センター(B型)設立の計画がある。これまで東京都において、地域での緊急一時保護事業はほとんど考えられてこなかったのだが、一昨年からこのB型センターの1室(緊急一時保護室)で1週間までの泊まりを行う、「ショートステイ事業」が東京都の必須事業となった。
○いずれ、その「ショートステイ事業」にこれまで「このみ」がやってきたことを全て持ち込んで、活動を行うことを考えている。しかし実際には、「このみ」のように専任で介護を行いながら、なおかつ介護のコーディネートも行うという位置づけは、このB型センターの業務になりきれていない。近隣でこの「ショートステイ事業」を行っているところでは、センターの職員が受付を行って、家政婦協会の方が介護を行うケースが多いのだが、人によって介護能力に差が出てきてしまうという状況がある。

【「このみ」における事業】
○「このみ」の運営は2つの事業から成っている。1つは学童の放課後の遊び相手として、「児童館」的な関わりを目指していくものである。地域生活の内容を本人にとって幅広い質のあるものにしようということで、色々なところに出かけたり、プログラムを用意して、遊びを通して、地域性や交流を深めていけるような活動を行っている。
○これは「通所訓練事業」として成人も幼児も同じ補助体系にある事業である。現在1,200万円を市からの補助として受けており、これを柱にして職員の確保を行っている。
○学童保育は月曜日から土曜日の放課後の2時から5時までを常勤の常勤職員と、パートの職員が対応し、緊急一時保護の依頼が入った場合は、残りの職員がそれに対応する。

【事業費について】
○緊急一時保護については、制度的に保証されている介護謝金は1日7千円である。全ての依頼についての介護謝金を積み重ねても、年間で300万円程度にしかならない。これでは職員1人分の人件費にもならないので、それぞれの家庭について「利用登録費」として、去年は12,000円、今年から15,000円の年会費をいただいている。行政の制度が適用されない場合の利用も可能であるが、その場合には1時間あたり840円の時給をいただいている。それから賛助会費として1口2,000円を、一般の市民の方に寄付をいただいている。年々賛同してくれる方は増えて、今では年間130万円くらいの寄付をいただいている。またバザーは年に2回行っている。
「このみを支える会」という会をこのみを利用している母親が高校の同窓会で結成してくれて、年間30〜40万円の寄付をいただいている。これらを合わせて、だいたい2,000万円の事業費で運営を行っている。

【職員体制】
○正規の職員は去年は4人であったが、今年の春から5人になった。そしてパートの職員、これは有償ボランティアという形であるが、4人である。1年365日いつでも利用者を受け入れることができるように、これらの9人の職員を振り分けて、休みを確保しながら、ローテーションを組んでいる。ただ、緊急性が高い依頼がたて続けに入っている場合には職員が休みをずらしたり、宿泊の依頼が入っている場合には職員の出勤時間をずらすなどで対応している。1日のキャパシティはだいたい5人〜6人程度である。わが国においてレスパイトサービスを行っているところでは最大手である。

【法人格の取得について】
○「法人格」の取得については業務内容としてかなり難しいと感じている。武蔵野市の高齢者向けの介護派遣の場合も、市が相当バックアップを行って、相談業務部門も設置しまして、「法人格」を取得したようであるが、独力では難しいであろうと感じている。
○このようなレスパイトサービスを提供するところが日本全国で少しづつ出始めている。
そこで生じてくる問題は、お金をどうするかということである。行政に対して一気に補助してくれというのも難しいところである。非営利団体から助成を受けられればと思うのだが、なかなか大きな助成団体でも法人格がないと助成を受けられないということがある。

【入所施設についての考え方】
○地域で生活できないから入所施設にはいるしかないという状況が多数ある。入所施設について云々するというよりは、提供できるサービスをたくさん作っていけば、地域で生活できない状況はなくなってくる。そうすれば必然的に入所施設に行きなさいといわれても行く人はいなくなる。入所施設を壊すところから始めるよりは、地域に必要な資源を置くところから始めれば、結果的に必要なものが見えてくるのではないか。「入所」か「地域」かというように対立してみるのは適当ではない。入所施設以上に利用したいと思うものが地域にあれば、必然的に入所施設はなくなってくるだろう。

【親の意識について】
○50〜60代の親たちにとって、自分の休息のために子どもを預けるということは非常に抵抗感がある。しかし、子どもの自立支援のためであれば預けやすい。「本人のため」ということが頭に付くと非常に利用しやすくなる。それも親のニーズの一部分かと思えば、それに沿った仕組みづくりも必要なのではないかと思う。


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