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知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒアリング記録

曽根 直樹氏(福)昴 FSC昴

曽根 直樹氏((福)昴 FSC昴 所長)
出席者 (財)日本船舶振興会:小関課長、中村
     (株)福祉開発研究所:宮森、小松、小林
場 所 FSC昴

1. 生活ホームについて

【生活ホームの概要】
○平成4年6月に開設。
入居者は家を建ててから福祉事務所を通して募集した。
入居しているのは全て地元の人たちである。
一般のグループホームと違うのは、バックアップ施設として入所施設を持っていない点である。(埼玉県の「生活ホーム事業」によって認められている。)
○グループホームは施設入所者の対処対策ではないと思っている。地域福祉といいながら実家から非常に遠く離れたグループホームを利用している状況が多い。グループホームは入所施設の回りにできることが多く、入所施設とグループホームはセットになっているように感じている。
○入所施設のない地域で生まれた障害者は、入所施設のある地域に引っ越していかなければならない。このよう現状は地域福祉のコンセプトからはずれる概念である。
○埼玉県の「生活ホーム事業」は入居者1人当たりに対して月額72,600円の補助金が受けられる。この金額は7人ほどの入居者がいれば、常勤の職員を1人雇用できる程度で、入所施設の措置費の1/3である。
○このことから、職員の雇用には限界があり、生活ホームへの入居者は、ある程度自分の身の回りのことができる人というように限定されてしまう。

【住宅建設費等について】
○建物の建設費は3,600万円。土地は大家さんから無料で借りている。
○施設に比べて建築コストは下げられる。
○利用者の月々の家賃(1人3万円)によって、建設費のローンを返済していく形である。
○現在7人定員で6人入居している。空き部屋の分の家賃は法人が負担する。

【入居者の構成について】
○障害の程度…重度の方が2人、中度の方が3人、軽度の方が1人。
○男女構成…男性が2人、女性が4人。
〇年齢構成…男性は19歳の方、49歳の方の2人。女性は46歳の方、48歳の方が各1人ずつ、54歳の方が2人で、年齢的には高齢の方が多い。
○6人の入居者のうち4人の方のご両親は亡くなっている。




【職業、家賃、生活費等について】
○中度、軽度の方は、一般の会社に通っている。1人は正社員、3人はアルバイトである。
重度の方は通所授産施設に通っている。
会社に通勤している方のうち、一番給与を貰う人で月12万円程度。
○家賃を含めて月に62,000円を「昴」に支払っていただいている。内訳は、家賃が30,000円、食費、光熱水費が30,000円、共益費が2,000円である。
○中、軽度の入居者の方は、定年になると年金だけでは生活ホームでの暮らしが苦しくなるので、備えとしてある程度ずつ預金をしてもらっている。
○入居者の財産管理は保証人を1人たててもらい、委託契約をして、サービスとして行っている。

【家具、設備類について】
○家具は入居者の方が1人43万円ずつ出資して購入した。設備、共用のものの費用は入居者の方の負担で賄うという主旨である。途中で転居する場合は減価償却した分を返済して、新たに入居する方が引き継ぐ。

【食事について】
○平日の食事について、朝晩は職員が用意している。土曜日の夜は、入居者が交代で作る。
日、祝日については、食事の用意は行っていない。

【グループホームについての考え方】
○地域で生活を続けていく上でポイントとなるのは、学校を卒業した後の生活の送り方である。レスパイトサービスがあるだけでは、実際の生活場面を支えきれない部分がある。
そうなるといずれは、入所施設へ入るという状況になる。生活ホームとレスパイトサービスは一体のものだと考えている。
○ただ建物があるだけでは、グループホームとして機能しない。重要なことはいかにそれを支えるサービス提供するかということである。
○入居に関する契約は法人と入居者の間で行い、賃貸借契約については大家さんと法人の間で取り交わしている。
○建物を建てる前に、周辺住民と特に話し合いは行っていない。後から聞いた話だが、大家さんが事前に根回しをしてくれていた。近くに住む民生委員の方も理解を示してくれた等周りの環境にも恵まれたといえる。
○食事の時間について、他の入居者に迷惑をかけないという以外には特に生活上の決めごとはない。

【職員の1日の流れ】
○職員の勤務体制は午前中は6時から10時、午後は4時から8時までの断続勤務体制である。
○職員の1日の大まかなスケジュールは、午前中は朝食の用意、共用スペースの清掃、事務作業が大まかな流れである。
○午後は、4時から夕食の買い物、5時頃から夕食の用意を行って、だいたい食事が終わるのが7時30分頃である。その後、職場でのことや、日常生活上のことについて相談等を受ける。話を聞くだけでも、入居者にとってはかなり精神的に良い。逆に話ができないと、どこかでそのつけが出てしまう。今は2人の職員で、生活ホームとレスパイトサービスを兼務しているので、レスパイトサービスが忙しくなると、どうしても生活ホームに関われなくなってしまう。そうなると仕事上、生活上の不満も積み重なってしまうため、入居者の話を聞くということに特に注意を払っている。
○リビングの他に、和室の共有部屋(6畳間)があるのだが、そこで入居者同士でよく話をしている。そこは職員もあまり出向かない部屋であり、入居者だけで自由に話ができる空間も持てたことは非常に有効であった。




【間取りの構成】

○階別部屋の構成は、1階には6畳間の部屋が4部屋、事務所として使っている4畳半の部屋が1部屋、2階には4畳半の部屋が5部屋ある。
○浴室は2階と1階に1つずつ。キッチンは1階のみ。
○また、物干し場の有無も非常に重要であると思う。部屋の中に洗濯物を干すと、居住空間としてかなり使いにくいものになってしまうからである。

2. レスパイトサービスについて

【レスパイトサービスの概要】
○昴のレスパイトサービス利用者の年齢は4歳から23歳で、年齢的には非常にばらつきがある。
○提供しているサービスは基本的には「一時預かり」が主で、加えて「送迎サービス」、「介護型のホームヘルプサービス」を行っている。
○開始当初は同じ法人の「ハローキッズ」の在所通園生がサービス提供の対象であった。
今年度からは東松山市内に居住している人であれば誰でもサービスが利用できるように要項を変更した。
○サービス提供の対象エリアは直線距離にして約30km、片道1時間で行ける範囲である。
○親に代わって子供の介助を行う出張サービスを行っている。
ex.結婚式に子どもと一緒に出席したいという時に、この出張サービスを利用して結婚式の最中の子どもの介助を職員が同席して行うことによって、一緒に結婚式等に出席することが可能になる。
○現在は1日「日帰り」3人、「泊まり」は2人というようにキャパシティを決めて、それ以上は、こちらが人を確保できたら引き受けるという対応を行っている。

【レスパイトサービスを開始した経緯】
○以前勤務していた、障害児の通園施設で「お泊まり保育」を年に1回行っていた。これは子どもの経験を広げるために、母親から離れて一晩施設に泊まっていくというものであったが、このサービスが母親たちにとってすごく好評であった。その際に、一時でも子育てから解放されることが、親たちにとっては必要なサービスになっていると感じた。
○1年365日、面倒を見ていないと、自分の子どもは生きていけないのではないかという意識は母親たちに非常に大きな緊張感を与えてる。その緊張感が過剰になると子供に当たってしまったり、父親に当たってしまったりして、家庭の中を暗くしまうということもあるのである。

【「昴」におけるレスパイトサービス実施状況の変遷】
?@1年目
○会員制で60人の会員からスタートした。年会費は3万円。預かりの時間は「日帰り」なら午前9時から午後5時まで。「泊まり」の場合は午後3時から翌日の午前9時まで。
利用料金は年会費の3万円の中で賄うものとしてサービスを実施していた。
利用可能日数は年間7日間。

?A2年目
○2年目に会員は75人に増加。
最初の年の延べ利用件数は140件であったが、1度も利用しなかった会員が全体の20%を占めた。このため、サービスを頻繁に利用する人と全く利用しない人では、負担面で不公平が生じることから、2年目からは年会費を基本料金として2万円、利用した分については利用料金として1時間300円をいただくというやり方に変更した。
○当初は職員が1人で、会員の増加に対して対応しきれない状況もあり、利用可能日数を年間6日までに変更した。2年目の延べ利用件数は190件。しかし「泊まり」の利用は減って、「日帰り」の利用が増加した。

?B3年目
○3年目も利用件数の増加が見込まれることから職員をもう1人増やすために、会費を年42,000円と大幅に増額した。また、これまでは利用可能な範囲を日数で設定していたのを、年間120時間までというように、「時間制」に変えた。
○利用状況の割合は、「泊まり」が全体の10%程度で、「日帰り」の利用が多い状況であった。利用時間数で1番多いのは1時間、2時間、3時間で短時間の利用が多かった。
○これは、ちょっと預かって欲しいときにすぐに預けられるサービスを親たちが望んでいたことを反映した状況である。
○利用方法が時間制になったということで送迎の利用が爆発的に急増した。これまでは月平均して10件もなかった利用件数が、今では月に60〜70件という状況である。
○だんだん母親たちから様々なニーズが出てくるようになった。
ex.母親、子どもがともにインフルエンザにかかったので、家に来て子どもの看病をして欲しい等。

【レスパイトサービスの考え方】
○当初は、年に何回か子どもたちを預かることで、サービスとして充足するであろうと考えていたが、実際に活動を進めていくと、親たちには様々なニーズがあることに気づいてきた。
ex.家族みんなでスキーに行きたいので、出張サービスで肢体不自由のある子供と一緒にそり遊びをして欲しいという依頼があった。
○この家族にとって、肢体不自由のある子どもを預けて、自分たちだけでスキーに行くということは幸せなことではなかった。もし「一時預かり」のサービスだけしかないのであれば、この家族にとってはあまり意味を持たなかった。
○利用者のニーズは、自分たちの思いも及ばないものが出てくる。
○様々なニーズが出てきて、時として困惑することもあるが、相手のニーズに対しては、なるべくこちらから合わせていこうという考え方である。仮に子どもを預けるということが常態化してしまったら、結果としてそれは本人にとって、非常に不幸な状況である。このように考えていくと、このサービスのあるべき姿に迷いも感じたが、現在の結論としては、そこに自分が価値判断を挟むことはサービスを制約してしまうことにつながり、適当ではないと感じている。結果的にはサービスを利用する人の考え方次第ということになる。


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