日本財団 図書館


知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


第2回「精神薄弱者福祉研究会」資料

知的障害者福祉研究会をどのように進めるか/廣瀬貴一委員長

(福)皆成会「光の園」施設長
廣瀬 貴一

わが国の知的障害福祉の最近の動向を念頭に、研究会のメンバーの意見を参考にしながら、本研究会の目的と課題及び研究成果を実行に移すための手段について、私案をまとめてみました。

1. 時代背景

従来の精神薄弱者福祉は、障害を持つ人達にとって「与えられる福祉」の域を出なかった。「精神薄弱者福祉」は当然「精神薄弱者のための福祉」であるはずだが、障害を持っている人達の希望や要望に応えたものではなかった。それは、障害を持つ人本人が自らの福祉にかかわる余地がなかったからである。
それならば、誰が「精神薄弱者福祉」を要求し、決定、推進してきたかというと、それは親・家族であり、福祉を与える側の行政、社会福祉法人・施設にかかわる人達であった。

親.家族、福祉を与える立場の人達は、確かに障害を持つ人達のためを思って精神薄弱者福祉を推進してきた。しかし、障害を持つ人達の意思や希望を尋ねることはほとんど無かった。政治家や行政官もそれに応じて法や制度をつくってきた。
障害者福祉の主人公は別の所にいる。それは言うまでもなく障害を持つ人自身である。長い間忘れられていたこのことが、最近にわかにクローズアップされた。知的障害者の権利が盛んに議論されるようになったのである。なぜ知的障害者の権利はおろそかにされてきたのだろう。
知的障害者は権利を主張することが極めて苦手である。それゆえ周辺にいる関係者が障害を持つ人達の意思を代弁する必要があるのだが、これがなかなか難しい。両者の利害が対立する場合さえある。親・家族、周囲の関係者は本当の意味で障害を持つ人の立場に立って要求してこなかった。
主人公不在の福祉が典型的に現れたのが「入所施設中心」の施策である。地域社会が障害を持つ人達を受け入れる態勢が未熟だったこともあって、「与えられる福祉」は「入所施設」という形態で実行された。親の安心感というモチベーションから入所施設は増加の一途をたどった。
地方自治体、社会福祉法人、施設の関係者は施設経営に腐心し始め、施設運営あって、利用者なし、のような状況にさえなった。
すなわち、誰が主人公か見失われていたのである。

1980年代に反省がおこった。ノーマリゼーションである。簡単に言えば、障害を持っていても普通の生活をするのが当然という考え方である。この思想、運動を基本として展開された国連障害者の10年は、現実の施策面における影響はそれほど無かったが、一般社会に対する情報の提供という意味では大きな効果があった。これによって、一般世間の知的障害者に対する理解は随分深まったと考える。
さらに、1980年代後半から1990年代になって、知的障害者の分野でも障害者本人の参加が強調されるようになった。
また、同時に、入所施設一辺倒の施策に疑問が投げかけられるようになってきた。今日では「地域生活」「当たり前の生活」「QOL」などが知的障害福祉のキイワードとなっている。

この背景には種々の要因が考えられるが、主たるものは次のようなものであろう。

?@養護学校の義務設置によって、障害を持つ児童にも全員教育を受ける権利が保障された。
このことによって児童入所施設の需要が減少し、親・家族も教育終了後はとりあえず「通所施設」を希望するようになった。
?A老人福祉の影響もあり、地域福祉の考え方が少しずつ浸透してきた。
北欧をはじめとする外国の地域サービス情報が頻繁に入ってきて、この影響を拡大した。
?B実践の場面で少しづつ地域生活援助の制度ができ、実際の活動(グループホーム、通所施設・作業所)が見られるようになった。入所施設とは別の選択肢が生まれたのである。
?Cここにきて親・家族、福祉関係者も「知的障害を持つ人達の社会参加」「知的障害を持つ人達の人権」「知的障害を持つ人達の生活条件の改善」に関心を示すようになった。

われわれが知的障害福祉を進めていくに当たり、その前提として最も重要なのは、知的障害を持っている人達自身のニーズであり、要望=「障害を持つ人本人がどんなことを望んでいるか」であるが、様々な機会での発言やアンケート調査を見る限り、彼等が「地域での当たり前の生活」を望んでいることは明らかである。まずこれを前提として銘記しておきたい。
これに加えて、最近では、親・家族も本人達の発言に関心を持ち、通りー辺の代弁でなく彼等の意思をできる限り尊重する傾向にある。すなわち「地域社会での当たり前の生活」が彼等の望みであることは親・家族も了解している。

入所施設(A)と親の安心感(B)一対である。ところで、AがあるからBが生まれることは事実であるが、Bを得るためには必ずしもAである必要はない。
つい最近まで、選択肢はAに限られていた。Aでなければ極めて不安定な在宅=親・家族の介護という図式である。もし、Bが得られるような第三の方策、すなわち地域生活援助システム(C)があれば、この親の不安をなくすという問題は解決できると考える。ただし、Cを熟知し、Cが安心感が持てるものと実感するまでには時間がかかるであろう。

この委員会で何を議論し、どんなことを実行に移すべきか?

【具体的な課題】

知的障害を持つ人達の要望に応えられるような「地域生活援助」はどうあるべきか。知的障害を持つ人達が地域で暮らしていけるための「地域生活援助システム」をできるだけ具体的に呈示する。
その基本は「住まい」と「日中のすごし方」であるから、課題をこの2点に絞ってみてはどうか。

1. 「住まい」としての研究課題

(1)グループホームを中心とする地域での生活とそれに伴う援助機能

ここで言うグループホームは「国のグループホーム制度」のような狭い概念ではない。〈新しい名称を考える必要があるかもしれない〉
より重度の障害をもつ人達が住むことのできる、あるいは行動障害を持つ人達のための(したがって複数の援助職員を配置した)グループホーム。
また、より自立した人達のためのグループホーム等、いろいろなタイプのグループホーム群を知的障害を持つ人達のニーズから想定し(国内あるいは先進諸国にモデルを求めることも可能)、これらのコンセプトをわかりやすく整理、統合する。
コンセプトの具体的展開として、
(a)建築設計設備面(ハードウェア)
(b)援助機能(ソフトウェア)
(c)援助職員の質量(ヒューマンウェア)
の研究が考えられる。何人かの委員が提案している「分散型施設」という発想もこれに集約できるように思う。

(2)ショートステイ(レスパイトサービスを含む)家族援助

ショートステイやレスパイトサービスは家族援助という概念で統轄する方が良いのではないか。家族援助は本来知的障害を持つ子どものいる家族向けのものであるが、当分の間おとなについても家族の介護・援助が続くであろう。我が国(この辺が北欧諸国とは異なる)では知的障害を持つ成人のいる家族向けのものも考慮に入れなければならない。
いずれにしても、家族援助のコンセプトは家庭に対する援助職員の派遣、余暇活動との連係、地域参加、家族や障害を持つ人本人に対する相談・助言などの機能も含んでいるので、あらためて研究する必要がある。

2. 「日中のすごし方」としての課題

(1)地域の障害者のニーズに応えられるデイ(アクティビティ)センターの活動とその機能

地域でこのような施設を必要としている障害を持つ全ての人達に対応できるような新しい発想に立つデイ(アクティビティ)センターの基本理念を明確にする。そして、それに基づいたコンセプトを構築する。

具体的展開として、
(a)立地条件、規模、建築設計・設備面
(b)仕事や活動の内容
(c)援助職員の質量
このような構想の下、各地域で設置母体、対象、規模、経営方針、財政、仕事・活動の内容等、ばらばらな「通所施設・作業所」をどのようにして地域に住む障害を持つ人達のニーズに応えられるものにしていくかは、難しいが重要な課題である。

(2)余暇活動を中心にすえた社会参加活動

ここでは、普通の市民と一般の資源を活用するインテグレーションの促進をどのように進めるべきかを研究する。

【研究の手法】

1. 国内先進地域と海外先進諸国のモデルを視察して、情報を収集する。

目標は当然、単なる施設見学ではなく、一定地域の総合的な施策の分析でなければならない。最終的には我が国への適応とその限界を検討しなければならない。情報の分析検討とディスカッションをワーキンググループごとに行う。

2. 委員以外に各地域の有識者や実践家を招き(場合によっては外国から)、問題点をしぼったシンポジウムを開催する。

【研究成果の活用】

最終的には、将来(21世紀)を展望した、実現性のある包括的な「知的な障害を持つ人達の地域生活援助システム」のモデルを提案することになろう。
近い将来知的障害者の福祉の計画実施の権限・責任は市町村に委譲されることは間違いない。研究成果(読みやすいコンパクトな情報に編集したもの)を地方自治体や社会福祉法人その他の関係機関に配布することによって今後の知的障害を持つ人達の福祉計画=地域生活援助計画の作成とその実施に対して大いに貢献できるものと考える。
また、一般の市民、障害を持つ人達本人、援助職員として働いている人達、これからこの仕事につこうとしている学生に対し、わかりやすいオーディオビュジュアルな手段、例えばビデオテープのシリーズを作成することも考慮したい。
以上の成果を広く公開することによって、関係者の意識を高めるばかりではなく、世論を喚起したい。


前ページ 目次ページ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION