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知的障害者福祉研究報告書
平成6年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


第2回「精神薄弱者福祉研究会」資料

重度障害者のデイセンター(通所活動施設)と地域生活支援/柴田洋弥委員

デイセンター山びこ 施設長
柴田 洋弥 1994.9.28

1. 重度障害者をとりまく現実

国際障害者年以来、障害者が入所施設で一生を送るのではなく地域社会の中で可能な限り普通の生活を送れるように社会的障壁を取り除こうとするノーマリゼーションの考え方が受け入れられ、様々な改革が実行に移されてきた。

しかし、生産・作業活動に携わることが十分にできない重い障害を持つ人については、作業やその他の様々な日中活動を行えるよう援助するデイセンター(通所活動施設)が制度化されていない。このため、精神薄弱者通所更生施設や小規模作業所など、本来は別の目的で設置された施設であるにも関わらず、現在様々な種類の通所施設が、このような重い障害を持つ人を受け入れている。
とはいえ、これらの施設では、それに対応できる職員配置も面積や設備も極めて不十分であり、深刻な困難に直面している。ごく一部の地方自治体では、このような通所施設に補助金を支給したり、独自の条例を制定して重い障害を持つ人のための通所施設を設置したりしているが、地域格差も年々拡大している。そのような通所先のない地域では一日中家の中で過ごさざる得ない障害者も多い。

一方、それまでは家の中にいたか、児童入所施設に入っていた重い障害を持つ児童(特に重複障害や自閉症を持つ重度知的障害児)が、養護学校義務設置となって以来、家庭から学校に通うようになり、学校卒業後も地域の通所施設に通わせたいと希望する家庭が急増した。第2次ベビーブームを迎えて、これらの卒業者を受け入れる通所施設の整備を求める声はますます高まっている。
また、このように発達期から重い障害がある人だけでなく、思春期・青年期から社会適応性が低下した人、難病や脳血管障害などの中途障害の人など、障害程度は軽いと判定されていても社会的重度と呼ばれる状態の人を含めて、生産・作業活動に携わることが十分にできない重い障害を持つ人の通所施設の不備は深刻である。

2. 通所更生施設の経過

1960年精神薄弱者福祉法制定時に精神薄弱者援護施設が制度化され、67年に職業訓練・社会適応訓練を目的とする更生施設と、就労困難で技術的作業の可能な者を対象とする授産施設に分類された。この時、重度者保護のため入所更生施設に重度棟を設けることとなった(重度加算制)。しかし、通所更生施設は利用者7.5人対指導員1人のまま据え置かれ、重度者の地域生活や通所は想定されなかった。

1970年代を通じて職業訓練・社会適応訓練を目的とする通過型通所更生施設が少数ながら各地に開設され、現在も一部にそのような施設が残っている。しかし就労困難者が滞留して授産的長期利用に変わった施設も多い。その後、通所授産施設には社会適応訓練を目的とする通過型の通所授産施設も開設されるようになり、通所更生施設の意義が曖昧となった。

1979年、横浜市が市負担で指導員を増配置し重度者対象の長期利用型通所更生施設を開設した。以後80年代を通じて、重度知的障害者・重複障害者の養護学校卒業後の対策として同様の施設が全国で年々急増し、現在に至っている。
1990年代に入って、付加事業としてデイサービス事業・短期宿泊訓練・レスパイトサービス事業・相談事業等を行う多機能な通所更生施設が増えている。

東京都では1977年より「生活実習所」が法外の重度知的障害者・重度身体障害者通所施設としてかなり十分な職員配置で設置され、84年以後はこれとほぼ同じ内容・職貝配置の通所更生施設を設置する区・市が増えている。

3. 通所更生施設の現状と問題点

現在、約200施設あり、大都市部に多く、約7000人が利用している。利用者のうち、IQ35以下又は測定不能の重度知的障害者は約68%(入所更生施設は約66%)、身体障害者手帳所持者は約16%(同約13%)、自閉症合併者は約12%(同約5%)であり、入所更生施設よりも全般的に重度化している(1992年日本精神薄弱者愛護協会調査)。

重度者に対応するための職員数確保に各施設は困窮している。国は91年〜93年度に非常勤介助員1名(通所指導費)を増配置したが、この程度の増員では全く不十分である。現状では地方自治体による補助によって対応しているが、補助を充分に得られない地域が多く、施設の新設を阻む要因となっている。
また重症心身障害や自閉症など障害が多様化し、それに対応する専門職員の配置と直接援助技術の確立・普及が不可欠である。また、施設面積も国基準(利用者1人当たり約14?u)の1倍半から2倍が必要である。さらに、重度者の地域生活を支える総合的な援助システムが極めて未成熟なため、親の病気や高齢化によって地域生活が不可能となる例が多い。

4. 現在、重度障害者が利用している通所施設の種類

A)法内施設
○精神薄弱者通所更生施設(措置施設)
○身体障害者通所授産施設・精神薄弱者通所授産施設(措置施設)
○身体障害者デイサービス施設・精神薄弱者デイサービス施設(国補助金施設)
○身体障害者B型センター(国補助金施設)
○重症心身障害児通園モデル事業(国補助金施設)

B)法外施設
○心身障害者生活実習所(都・都内各区制度)
○重症心身障害者通所施設(都・都内各区制度)
○障害者通所援護事業・精神薄弱者通所援護事業(国補助金施設・通称は小規模作業所)
○心身障害者児通所訓練等事業・心身障害者児訓練事業・地域デイサービス事業(都・都内各区制度)
○心身障害者通所授産事業・心身障害者授産事業・精神薄弱者授産指導事業・福祉作業所(都・都内各区制度)

これらの施設のうち、生活実習所は重度知的障害者又は重度身体障害者を対象とし、直接援助職員も利用者3対職員1+αの配置であり、面積も利用者1名当たり約30?uと広いが、都・区の財政負担が多いので増えない。
その他の施設は、職員数も面積も重度者への対応が困難な基準である。車度障害者のために抜本的なデイセンター制度を確立し、現在の各種施設を整理して新制度に移行できるよう改善が求められる。

5. 障害者デイセンターについての提案

1992年7月、厚生省「授産施設制度のあり方検討委員会」は通所施設を?@福祉工場、?A授産施設、?B「社会参加・生きがいを重視し創作・軽作業を行うデイサービス機能をもつ施設」の体系に分けて整備することを提言した。

この?Bの施設として「障害者デイセンター」を次のように提案する。
○市区町村レベルの小さな地域を対象として多様な障害に対応し、障害者一人一人の状態に合わせて活動プログラムを作る。プログラムは可能な限り利用者が選択する。
○月〜金曜日の毎日通所ができ、就労に代わる成人期の日中活動の場である。指導・訓練を目的とする通過訓練型施設ではなく、成人期を充実して送るよう、社会参加・自己実現を目的とする。作業や活動(生活・文化・運動・各種療法)を行うが、障害の状態によっては作業が無くても良い。活動はなるべく地域社会に参加・統合するようにして行う。
○一日6時間程度の利用。給食があり、必要な利用者には送迎する。出来高払いの工賃支給ができる。一人当たりの基準面積は20〜30?u。他施設に併設方式や複合施設方式も検討する。援助職員は3対1程度を基礎とし、必要に応じて医療職・介護職・その他専門職を加算。
○選択デイサービス事業の拡充も必要だが、?@どのような障害にも対応するため、?A場や援助者との安定的な関係の必要な障害者に対応するため、?B専門的機能を維持するために、安定的な活動の場としてデイセンターが必要である。
ただし、措置制度については、利用者主体や地域参加を阻まないよう見直しが必要である(デイサービスとの関係と、措置施設の可否については、関係者間でさらに検討が必要である)。
○現在、すでに重度障害者の通所活動施設としての役割を果たしている通所更生施設等が新しいデイセンター制度に移行できるようにする。

6. 重度障害者の地域生活支援システムについての提案

重い障害を持つ人の地域生活は、デイセンター(通所活動施設)の整備だけでは成り立たない。現状では親と同居し、その介護に頼っている人が大半であるが、親が病気になったり高齢化すれば、たちまち生活基盤を喪失せざる得ない。そのため総合的な地域生活支援システムが必要である。

?@ワークアクティビティ支援
○デイセンター(通所活動施設、措置費施設か補助金施設かは検討の余地あり)
○デイサービスセンター(選択利用型、デイセンターとの関連に検討の余地あり)
?A生活支援
○居住支援(援助付き住宅・グループホーム・重度者用連結型グループホーム)
○在宅介護支援センター・ホームヘルパー派遣・入浴サービス・給食サービス
○ショートステイホーム・生活練習ホーム
?B社会活動支援
○移動支援(ガイドヘルパー・リフトカーサービス・交通機関の対応)
○情報・コミュニケーション支援(ピクトグラム・マカトン法・構造化等)
○地域サークル活動支援(文化スポーツ余暇活動・仲間作り)
?C所得保障(有料サービス購入費を含む)
?D医療保障
?E家族支援(家族相談・家族ピアカウンセリング)
(レシピットサービスはホームヘルパー派遣とショートステイホームで対応)
?F権利保障
○成年後見人制度・権利擁護機関
○地域生活支援コーディネーター(ケースマネージメント・ソーシャルワーカー)
?G社会意識の変革
○重度障害者の人権・人格尊重のための援助者・住民・行政の意識変革
?H地域型小規模入所施設(障害の極めて重い場合の当面の選択肢として)

7. 重度者用連結型グループホームと地域型小規模入所施設

連結型グループホームは、夜間及び土・日曜日の生活援助を行い、家庭に代わる暮らしの場である、利用者は、日中は通所施設等に通う。それに対して、入所施設はホームの機能と通所施設機能の両方を持ち、24時間の生活援助を行う。

両施設とも次のような条件が望ましい。
○小地域対応であること。人口10〜20万人程度で、実家との距離が片道1時間(できれば30分)以内の範囲に住民が居住する。
○居住者数は、10〜30名程度。
○居住棟は2〜6ホーム程度のグループホームが連結し、各ホームには4〜6名が居住する。各ホームごとに、玄関・居間・食堂・台所・便所・風呂と居住者の個室がある。
つまり各ホームは独立した家としての機能を持つ。
○重度障害に対応するには職員の夜勤体制が必要である。そこで夜間は少ない職員数で全ホームを集中的に安全管理ができるように、各ホームが連結されている。
○ホームの生活は個人の意思と人格・人権が可能な限り尊重され、家族・友人との往来・通信が自由であり、希望すれば高齢になるまでそこに住み続けられる。
○ショートステイホーム・生活練習ホームを併設する。

この他、小規模入所施設の場合は、日中の活動の場が必要である。1日中限られた入所者と職員の集団で過ごすため、人間関係が閉鎖的になり、人権侵害も生じやすい。
そのため、日中活動の場を地域内の居住棟から少し離れたところに設置したり他のデイセンターと共同で活動すること、家族といつでも往来でき家族との絆を保つこと、地域住民との様々なふれあいを深めること、などの工夫が必要である。

連結型グループホームの方が良いが、日本の現状では、障害の極めて重い場合、地域生活を継続するために地域型小規模入所施設も1つの選択肢である。


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