2. 前回ビジョン未実現の要因
前回ビジョンの未実現の要因は、次のように整理されよう。
(1)内的要因
a)造船所の体質
・好不況のサイクルを繰り返してきたため、造船所には、抜本的な問題解決ではなく、逆境に耐え抜くことによって自社の生き残りを図ろうとする意識が強い。
・造船所は「一国一城の主」的意識が強く、結束に乏しい傾向があり、協同での問題解決が図られなかった。
・グループ形成による問題解決についても、大不況時には受注確保、設備調整等の必要性から、各造船所間の調整も行われるが、それ以外の時は独立意識が高い。
b)労働力
・NC工作機の導入等が行われ、一定の成果がみられるため、決定的な労働力不足は回避できている。
c)外注の活用
・過去2回の大不況の教訓から、外注を活用することによって、本工を絞り込んでおり、不況耐久力が備わっている。
・外注に依存する割合が高く、自社のみでの対応には限りがあることから、共通の危機意識が盛り上がりにくい。
(2)外的要因
a)受注産業性
・造船業は受注産業であり、発注者並びにマーケットの影響を受けるため自律的に構造改革を進めていくことは難しい。
b)好況の到来
・前回ビジョンを策定した昭和57年以降、61年、平成7年の円高時には危機感も漂っていたが、その後不況を脱し、ここ数年は内航船を除き受注も比較的好調であるため、構造改善に目が向かなかった。
・バブル経済期には、内航船の建造が盛り上がり、権利価格も高騰したため、海運業も兼業の造船所にとっては、危機到来が先送りされてきた。
c)発注元の意識が未成熟
・高速貨物船など、新しい発想の船については、大手・中手では取り組みが見られるものの、四国地区の中型・小型造船所においては、そうした点に顧客である船主の目がまだまだ向いていないため、取り組みは弱い。これについては、内航の構造改善から、スポットが当たる可能性もある。
d)地域におけるポジションの高さ
・他に大きな製造業・企業がない地域も多いため、造船所に人が集まりやすい要素があり、人手不足が決定的な段階に至らなかった。
e)対象の幅広さ(懐の深さ)
・四国地区は建造船に、内航、近海、遠洋と船型・船種の幅があり、これまで多くの場合には外航の悪い時期には内航船の需要があり、内航船の需要が冷え込むと、外航船の需要が拡大し、造船業全体として仕事先が確保されていたため、深刻な問題とならなかった。(漁船に依存した国内他地区に比べると需要構造変化のショックが少ない)