(ウ) 保証書添付の場合における登記義務者への通知
登記義務者が登記済証に代えて保証書を提出した場合には、(船登規則1条、不登法44条参照)その申請が所有権に関する登記については、当該申請は即日受理されず(登記の実行が留保され)、登記官から当該登記義務者にあてて登記申請に間違いがないか否かの通知が発せられ(事前通知)、右の通知を受けた登記義務者から登記申請に間違いがない旨の申出があってはじめて受理・登記される。(船登規則1条、不登法44条ノ2 1項、2項参照)なお、所有権に関する登記以外の登記申請を保証書によって行った場合には、登記官において、その登記を完了したときに、その旨を登記義務者に通知するものとされている。(事後通知)(船登手続24条、不登細則69条ノ4参照)この取扱は、登記義務者でない者が不正の保証書を提出して登記をなすおそれがあることに対してとられる措置である。
(注1) 登記官の登記申請に対する審査権限については、形式的審査主義(形式的適法主義)と実質的審査主義(実質的適法主義)との2立法主義があり、わが国の登記制度においては前者を採用しているものとされる。なお、これらについては、不動産登記法に関する著述を参照されたい。
(注2) 昭和32年3月末までにおいては、船舶登記制度に特有のものとして、特別登記簿のほか、登記証書の交付の手続が存在した。すなわち、登記済証の作成交付をなすとともに、始めて所有権の登記をなす場合においては、登記官吏が登記完了したときに登記証書を作成して登記権利者に交付することを要し(船登規則旧17条)、その後における登記申請に際しては、申請書に前記登記済証とともに登記証書をも添付することを要するものとされていた(同規則旧7条。旧10条、旧11条参照)。しかし、その後、登記証書制度の実益が乏しく、むしろ手続の繁雑化をきたすのみであることから、特別登記簿制を廃止すると同時に廃止された(昭和32年2月政令16号、船舶登記規則の一部改正)。
第2款 船舶の所有権の登記手続
第1項 序説
船舶法は、船舶所有者を対象として規律する法律であり、また、船舶法と直接関係を有する船舶登記制度は、船舶所有権を中心として存立するものであるから、まず所有権取得の態様、船舶国籍証書との関係及び所有権に関する登記本来の効力たる対抗力について概観することとする。
1. 船舶所有権の取得、移転及び喪失
船舶所有権の取得の原因は、一般動産の場合と同様である(ただし、登簿船については、民法192条(即時取得)の適用はないものと解するのが通説である)が、原始取得の原因中船舶に特有のものとしては、公法上の原因たる捕獲、没収等がある。すなわち、捕獲は交戦国の船舶を拿捕する場合をいい、没収は船舶法違反(法22条、22条ノ2、23条参照)あるいは関税法違反(関税法118条)等に基づく国家の所有権取得をいうのである。そして、私法上の原因に基づく場合は、船舶の製造である(造船契約による場合には、注文者の取得は承継取得となることがある。)。