第2章 船舶の国籍
第1節 総説
1. 船舶の国籍の意義
船舶の国籍、すなわち、船籍とは、船舶が一国に帰属する状態をいい、これによって、その船舶が自国船舶であるか外国船舶であるかの区別を生ずるのである。
船舶は、種々の点において人的性質を有するから、自然人の場合と同様に国籍が定められ、いずれの国家の保護監督下にあるかが明らかにされる。わが国においては、国民分限(国籍の取得)については、国籍法により定められるように、船籍については、船舶法(法1条)により定められる。
船舶の国籍は、国際法(注)及び行政法上重要な意義を有する。すなわち、船舶が公海(国家の領有に属しない海の全体。原則として国権の行使はできないが例外がある)を航行する場合には、その船舶の所属国の国権が行われるばかりでなく(刑法1条参照)、その国籍は、戦時における捕獲審検の標準となり、平時においても無国籍船は海賊の取扱を受けるおそれがある。
また、各国の行政法は、自国船舶であるか否かにより船舶の取扱につき差異を設けている。さらに、船舶の国籍は、国際私法上、準拠法決定の主なる標準となり、ひいては海商法上における意義もまた大である。
(注) 各国間の通商航海条約においては、通例として、国旗と船舶国籍証書とによって、相手国の船舶なることを認める旨を規定している(アメリカ合衆国との友好通商航海条約19条2項、ノールウェーとの通商航海条約10条、ソ連との通商条約8条4項等参照)。
2. 国籍取得の要件
船舶は、国際法上において、必ず特定の国家の国籍を有すべきものとされ、また二重国籍を有することを禁止されているが、国籍取得の具体的要件の決定は、各国の自由な規律にゆだねられている(注)。ただ、無海岸国が船舶に国籍を付与する場合には、1921年のバルセロナの「無海岸国の船旗に関する権利を承認する宣言」により、無海岸国の一定の地に登録すべきことになっている。
船舶の国籍についての各国の方針は、自国の海運業の発達の度と国情の相違に応じてこれを異にしている。従来、各国は、法律上船舶の国籍の標準として、?船舶の製造地又は材料の産出地、?船舶所有権、?船舶乗組員の3種を用いていた。船舶国籍法の創始とされる1651年のイギリスの航海条例は、重商主義のもとにおいて、船舶の所有と製造地と海員との3要件を採用したが、現在の各国の法令は、これらのうち船舶の所有権のみに重点をおくものが多い。
(注) 国籍取得の要件を各国統一的に定めようとする国際的な動きがあり、1896年の国際法学会のべニス会議