4.2 今後の課題
沿岸地帯が高度に利用されている現在、津波来襲時にどんな災害が起こるかを少ない過去の事例から推定し、これへの対策を講ずることは緊急の課題となっている。中でも、数の増えた船舶・漁船の処置については殆ど考えられていないのが現状であるから、これについて検討・準備しておく必要がある。高価な船舶・漁船自体の被害推定も勿論であるが、それにもまして重要なのは、これらが大規模な二次災害の原因とならないような適切な処置方法である。
所で、従来の津波被災現地調査においては、津波の打ち上げ、及びそれに基づく陸上での被害についての関心が主となっており、船舶等について参考となしうるものが極めて少ない。最近の津波災害対策立案では、数値計算が多用される様になったが、それも主な関心は水位変化に置かれ、船舶等の処置に参考となる出力は殆ど省みられていない。
こうした状況を踏まえ、本調査では船舶・漁船を主な対象とすることとしている。
現在、津波来襲が予想される場合、船舶の処置に関しては、大きな船については沖出し、小さな舟については陸上に揚げて固縛することが推奨されている。
しかしながら、沖出し途上で津波に遭遇し、かえって危険となることも予想される。この観点からは、危険となりうる状況が、発震後どの位の時間で始まるかを、まず認識する必要がある。航行中の船舶が危険となる状況とは、流速が早く操船が難しくなること、及び引き潮で十分な水深が得られなくなり、座礁することである。この二つは、限界流速と限界水深で表現でき、その発生時刻と合わせて判断することとなろう。また、やや特殊な状況としては、大規模な砕波段波や波状段波が発生し、船舶がこれを乗り切れなくなる場合も考えられる。
泊地の船舶にとっては、そこに発生する流速が、安全に係留し続け得るか否かの条件を与えるであろう。この場合も、特殊条件として段波の襲来が上げられる。
岸壁に係留中の船舶にとっては、流速・水位の変化による移動により、係留索に発生する張力が許容範囲に収まるか否かが検討の対象となろう。また、防波堤内側に係留される小型漁船については、溢流する海水による水没などの、特殊な被災形態もあり得る。
こうしてみると、船舶にとって必要な情報は、津波による水位や流速の大きさとそれらの発生時刻となる。すなわち、水位や流速の時系列を入手し、これに基づいて判断資料を作成しなくてはならないのである。しかし、これらを過去の測定事例から得ることは不可能に近い。僅かに得られる水位変化時系列は潮汐記録であるが、観測場所が限られており、その精度にも様々な問題のあることが、最近では明らかになってきている。特に、流速については、断片的な例外を除き、全く入手することが出来ないのが現状である。
そこで、本調査では、津波数値計算を実行し、必要な情報を作成することとした。しかしながら、数値計算は数値計算でしかない。実際に発生するであろう現象が、数値計算結果と大幅に異なることは考えにくいが、数値計算結果と実現象の間に起こりうる差については十分理解した上で、計算結果を判読・利用しなくてはならないのである。
何故、数値計算は現象そのものではないのであろうか。誤差の発生する箇所は至る所にある。また、不用意な計算を企画すると、計算途中で不安定が発生し、計算全体が破綻を来す。誤差及び不安定とたえず闘いながら津波数値計算は行われるのであるが、一般にはその中味が問われず、最終的な数値のみに絶対的な信頼が置かれやすい。これでは危険を見逃す可能性がある。そこで、誤差