図2・13に基本的なSARTの構成をブロック図で示した。また、この図の主要部分には、図2・14の当該波形図の記号が示してあるので、対比して眺めるとよい。
レーダーのパルス電波aが発射されるとその相対距離の時間だけ遅れ、しかもbのように減衰してSARTに到達する。なお、このパルス電波aは毎秒何百〜何千発も発射されているが、図2・14にはそのうちの2発分だけを示してある。
SARTではパルス電波aのパルス幅とは無関係に、その前縁を基準としてシステムトリガcを得るための増幅がなされ、また、航海用レーダー等の水平偏波を対象としているので、空中線系はすべて同一の偏波で送受信する。なお、この空中線系は、SART自身あるいはSARTを装備した救命いかだや救命艇が波浪にさらされても常にレーダーに指向させる必要から、水平面内が無指向性で、垂直面内は25度以上という特性が要求される。
システムトリガcを得るまでのSARTの受信部には特別な同調回路はなく、ほほ9,300〜9,500MHzまで平担な広帯域性を有している。したがって、レーダー電波bの到達レベルがある一定値を超えていれば、この周波数帯域内にあるすべてのレーダー電波が受信できる。なお、レーダー電波bを受信してからシステムトリガcが導出されるまでに、主としてビデオ増幅器の周波数帯域幅に起因する時間遅れが懸念されるので、これも広帯域特性のものを用いている。
システムトリガcは送受切替え回路(二入力NAND、ANDゲート等)を経て、周波数掃引の時間基準を作るためのパルス列発生回路に加えられる。これはレーダー装置のPPI・距離目盛発生回路と同じようなものである。ここで作られたくし状のパルスdをカウンタで計数し、パルス幅100μsの応答送信用基本パルスeを作成する。この100μsの値は一定で、パルス繰り返し周波数の異なるレーダー電波に照射されても変わることはないが、上限はこの幅で制限され、8,700pps以下(パルス繰り返し周期115μs以上)のレーダーに対応できる。しかし、対象とするレーダーのパルス繰り返し周波数は、ほとんどが電話機の可聴周波数帯幅にほぼ等しい300〜3,000ppsの中に存在するので、実用上の不都合は全く生じない。
この基本パルスは低周波電力増幅器にも加えられて音響モニタ用のスピーカを駆動するタイプもある。救命いかだや救命艇のように、あらかじめSARTが装備されるものには、この音響モニタの作用は有効である。