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もう一つはアジアです。アジアでは、日本ももちろんそうですけれども、水田稲作によって米をつくって、その米を中心にした食体系をつくるわけです。ですから、主食は米です。

牧畜と違いまして、農耕民族の集合ですので、土地に土着しているわけです。決して移住しないわけです。水田稲作を持っている農耕民が移り住むわけにはいかない。アジアモンスーンという風土の中でしか大量の米はできないわけですから、その自然の中で土着をして、そこでできるものを食べている。そして、主として食べるもの、つくるものは水田稲作だという格好になるわけです。

ここでお魚がちょっと出てくるのですが、肉食民族は肉が主食です。ほかは何も要らない。米食民族は、主食のお米だけ食べていたのではだめです。そこで、お米の周りにいろいろなものを並べて食べるわけです。これはまた後でちょっとお話が出ます。そういう意味では、米食民族は食が非常に多様です。肉食民族は食べ物が非常に単相、シンプルです。そこの違いがあるわけです。

アメリカなどへご旅行になった方はおわかりかと思いますが、アメリカ人の食は非常にシンプルです。まずいというつもりはありませんけれども、非常に単純です。季節にかかわりなく全く同じものを食って、特に一週間を見ますと、肉を中心にして一週間のローテーションで食べている。我々がそういう食べ方をするとすぐ飽きてしまう。

ところが、東南アジア、日本をとってみればいいのですが、我々の食は実に多彩です。「日本料理ってどんなものですか」といわれたときに、答えになりようがないくらい多彩です。これはいつかまた別のところで議論したいと思っているのですけれども、日本料理は実に変幻自在、つかみどころのない料理です。こんな話をしていると時間がなくなってしまうので飛ばします。

そして、お米を食べている人たちは、要するに、土着していますから、その土地で生産されるすべてのものを利用しているわけです。それはイナゴであれ、バッタであれ、カエルであれ、昆虫であれ、その土地にくっついているものは何でも食べてしまうわけです。

とかくアメリカ人なんかは、東南アジアへ来ると、彼らが顔をしかめるような変なものを食べているという図がよくあります。例えば、日本へ来て、イカやタコを食べていると驚く。それは肉食民族にとっては驚きですけれども、本来人間というのはそういう雑食の中で生きてきた。だからこそ、長い年月、競争に勝てたわけです。これは後でまたお話が出てまいります。

例えば、中国なんかは本当にいい例ですけれども、中国の歴史を見ますと、北の方から北狄というのがございます。北の夷ですが、北狄がいつでも南を侵略しているわけです。それは皆さん歴史でよくご存じだと思います。南の方は、いつでも虐げられ、略奪を受けるわけです。結局北狄にやられます。

では、北狄は何を食っていたかというと、実は牧畜民族ですから、肉を食っていたのです。南船北馬ではないのですが、馬に乗って、ともかく穀類の生産は余りやっていないわけです。揚子江の周辺から南の方は水田稲作をやっていたわけですから、穀物をみんな持って抱えているわけです。それを略奪されるということで、中国はいつでも南と北で争って、常に南が負け、

 

 

 

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