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日本に就航している外国船の船長に、海上輸送における問題に何がありますか、と問いかけると、「美しい国、日本には行きたい。しかしながら、日本の港には入りたくない」という一つのコメントであります。なぜかといいますと、世界中のほとんどの国の船舶の輻輳している沿岸では右側通行を遵守すべく分離通行方式になっています。

一方、日本の場合は分離通行方式がなかなか制定しにくい国のようです。

海洋国家であるはずの日本には分離通行方式もなく、大型船・漁船等が、それぞれの海上衝突予防法を遵守しながら入り乱れて走っています。

もう一つは、「至るところに漁船が操業していて、どこを走っていいのかわからない。よくこんな日本の沿岸を航海しているね」と聞かれたことがありました。「我々は家族の待っている自分の家になんとか帰りたいために、事故を起こさないように努力しながら頑張るのですよ」と。そういう意味では、外国の船乗りとは異なります。

我々船乗りは日本の国内の港から港への航海は、本当に気の休まる暇もありません。

それともう一つは、どの国にも国内法があります。その国内法が外国人にはよく理解できないところもあるから、強制パイロット制度があるのだと思います。世界のほとんどの国で総トン数に関係なく、または三〇〇、五〇〇総トン以上の外国船が湾・川・港等に入るときには、水先案内人をとらなければなりません。

日本ではまだまだ総トン数一万トン未満の外国船は水先案内人をとらなくても入航できる海域がたくさんあります。

外国の場合、国防・セキュリティの面から、自分の国の沿岸・港湾すべてに、外国船の出入りを逐一チェックできる体制をとっていることにも意味があるのかなと思います。

ちなみに、日本では、特定港(横浜港・神戸港他)では、三〇〇総トン以上の船舶は強制パイロット、それ以外の湾及び港では、総トン数一万トン以上は強制パイロット(制限のない港もある)となっています。

三大港(東京・伊勢・大阪)・瀬戸内海・関門海峡に至るまで、一万総トン未満の外国船が自由自在に走りまくっているのが現状です。

日本の海域近辺においての海難事故は世界でも一番多いのではと思います。

我々日本船が外国で海難事故を起こした例はほとんど聞いたことがありません。すべて日本近海での事故が多いようです。

ただ年間かなりの数の船舶が海難事故に因り沈み、三〇〇人以上の尊い命が失われていると報告されています。

 

私が入社して、最初の航海がヨーロッパ航路でした。そのとの船長が、事あるごとに「欧州航路は海の銀座だよ」と話しておられました。初めは、何の事か理解できなかったのですが、実は日本を出航して、ヨーロッパの港に着くまで、それこそ行き交う船々の連続でした。例えば、北米・南米航路の太平洋、豪州航路の南太平洋では、ほとんど船とは出会いません。

日本の諸港を回った後、台湾の基隆、香港、ベトナム沿岸を

 

 

 

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