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5.6 Inipol EAP22に関する考察

 

1989年3月アラスカで起こったExxon Veldez号の座礁に伴う原油大量流出事故後1年経過した時点で、elf社製Inipol EAP22の効果が大きく報道され関心を呼んだ。このInipol EAP22は基本的には界面活性剤であるが、微生物による石油分解を行う場合自然の状態では不足する窒素およびリンを効果的に供給できるように設計されている。流出油の回りに付着して自然状態で存在している原油分解菌の生育を助け、分解を促進すると言われている。

安全性については、製造元のフランスではこのような薬剤に対する基準がなく、LD50が規定されているだけであるが、アラスカの事故に伴い、EPAで詳細なデータを出している。Inipol EAP22の組成から考えると、安全性に対してはほとんど心配ないと考えられるが、日本で使用する場合には当然日本の法規で要求される安全性に関するデータを用意する必要がある。

Inipol EAP22は、貯蔵に問題がある。低温になるとゲル化するため、低温環境で使用するときは、温度を上げ溶液状にしてから用いなければならない。高温になると微生物による分解を受けるため、長期の貯蔵が難しい。保証期間は、低温保存した場合2年間程度である。本試験では、注文し、空輸された新しい製品を用いたため、保存による劣化は考慮しなくてよいと考えられる。また、使用した温度は20℃であるため、Inipol EAP22の低い効果が温度の影響とも考えられない。

いろいろなデータを合わせて考え、Inipol EAP22の効果について、以下の仮説を提唱する。先ず、Inipol EAP22は原油に対する優れた乳化剤である。これは、例えば、Inipol EAP22を添加後、海面上のスリックが速やかに消失したことからも想像出来るし、実際、原油とInipol EAP22を水中で混ぜると、原油は乳化する。試験開始後1ヶ月以上経過すると、一度消失したスリックが再び現れる現象がInipol EAP22を処理したタンクで見られた。三菱化学の栄養塩を加えたタンクではそのような現象は観察されなかった。InipolEAP22の乳化作用で分散・沈殿した原油が、微生物による分解に従って不溶化され、海水表面に再び浮上してきたと考えられる。Inipol EAP22が有名にならたのは、アラスカで使用した際、Inipol EAP22を散布した場所での原油の付着量が非処理区に比べはるかに減少したことにある。恐らく、その結果はバイオレメディエーションによる浄化では無く、界面活性剤を散布したことによる清浄効果とも考えられる。Inipol EAP22は、C源としても使われる。これは、その成分(オレイン酸)を見ても明らかである。この結果、原油分解菌以外の菌が増殖し、結果として、栄養塩を供給したにも関わらず、原油分解が思うほど促進されないという結果につながったとも考えられる。

 

 

 

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