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図3-4-10に、培養ビン内の酸素分圧を変えて測定した、高硝酸態窒素濃度条件における呼吸活性の経時変化を示す。図に明らかなように、酸素分圧が低くなるにつれて呼吸活性が低くなる傾向が見られた。なお、図3-4-10(下)に示されている通り、酸素分圧を低く設定した場合(図では、酸素分圧=4%)には呼吸速度曲線が台形状になっており、明らかに液相への酸素の溶け込みが反応の律速段階になっていたことが分かる。

窒素源として硝酸態窒素を用い、低酸素分圧、高・低窒素濃度条件で測定した呼吸活性を図3-4-11に示す。高窒素濃度条件は図3-4-10に示したデータと同じものであり、酸素供給律速が生じていた条件である。低窒素濃度条件では、呼吸速度曲線が小ピークを示しており、酸素供給が律速段階ではなかったと判断される。しかし、溶存酸素濃度が低いため、全体としてほとんど呼吸活性は見られなかった。最終到達菌密度は、高濃度条件の場合の約1×109CFU/mLに比して、低濃度条件では約2×108CFU/mLにしか達していなかった。

一方、窒素源として有機態(尿素)を用いた試験でも、同様に高窒素濃度では酸素の供給律速が明らかであったが、最大呼吸速度の値は硝酸態窒素を用いた場合よりも、かなり高い値であった(図3-4-12)。これは、試験時の酸素分圧が硝酸態窒素の場合に比べて若干高かった(硝酸態窒素の場合の酸素分圧=4%に対して尿素の場合は酸素分圧=7%)ためと考えられる。なお、低窒素濃度条件では、初期に小さなピークがあるだけで、やはりほとんど呼吸活性は見られなかった。最終到達菌密度については、硝酸態窒素を用いた場合と同様に、高濃度条件では約1×109CFU/mL、低濃度条件では約3×108CFU/mLであった。

培養後の原油残留率を図3-4-13に示す。図には、それぞれのデータのばらつきが大きかったので、各窒素条件毎の平均値を示した。図に明らかなように、低酸素分圧条件(酸素分圧=4-7%)においても窒素源濃度による分解率には大きな差が見られた。すなわち、低濃度条件下では7.5〜15%程度の分解率であったのに対し、高濃度条件下では40%以上の分解率であった。

硝酸態態窒素、尿素を用いた試験で得られた分解率は、3.4.2の試験で測定された分解率よりも、かなり高い値である(高窒素濃度条件では30日で28%、低窒素濃度条件では30日で11%、低酸素分圧・高窒素濃度条件では6日で40%以上、低酸素分圧・低窒素濃度条件では6日で7.5〜15%)。しかし、上に述べたように最終到達菌密度にも差があり(高窒素濃度条件では約2×108CFU/mL、低窒素濃度条件では約5〜6×107CFU/mL、低酸素分圧・高窒素濃度条件では約1×109CFU/mL、低酸素分圧・低窒素濃度条件では約2〜3×108CFU/mL)、分解率の差が反映しているものと考えられる。

以上の結果から、原油分解にはある程度の溶存酸素濃度が必要であるが、1〜2ppmあれば十分であることが示された。一方、上に示した通り海浜に漂着した原油は、浅くではあるが砂利などの層内へ浸透していくと予想される。しかし、このような場所では、大気からの再曝気を期待することはほとんどできず、最大でも海水中の飽和溶存酸素濃度に見合う量しか酸素が供給されないことになる。従って、分解助剤として栄養塩を添加する際には、必要以上に酸素を消費しない形態の窒素源

 

 

 

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