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3.2 試験油の性状の設定

 

3.2.1 目的

 

本研究におけるバイオレメディエーションは、日本沿岸地域における海上油流出事故による海岸への漂着油を対象としたものである。流出油は、潮流、風の影響を受け、時間経過とともに拡散し(潮流とは同じ速度、風速の3〜5%)、汚染地域は拡大するが、原油の流出後には、先ず海上で機械的回収(オイルフェンスと回収機等による回収)、物理的回収作業(吸着材等利用)が行われる。沿岸に油が漂着するまでに要する時間は、油種、流出事故地点、潮流、風、気温、海水温度、海上での回収の程度等によって異なる。また、海浜に漂着する油の性状は、原油の性状に加えて、漂流条件すなわち、漂流時間、海水温度、気温、風、波、降雨等に大きく左右される。一方、海岸でバイオレメディエーションの対策が講じられるまでには、数日以上の時間が必要であると考えられる。

過去の報告例によれば、実環境に放出された原油成分の内、低沸点成分(軽質分)は速やかに揮散し数日後にはほとんど残っていないとされている(アラビアン・ライトであれば約1/3が蒸発する)。また、軽質分の揮散速度は、原油種による他、一般に気温、風速、湿度等に大きく依存するため、軽質分の揮散途中のある性状を代表的な試験油の性状として定めることは困難である。

そこで、風化過程途中の性状を代表的な性状とみなすことには問題があるため、風化のほぼ完了した性状の油を試験油とする。なお、ここに言う風化過程とは、主に低沸点成分の揮散に伴う物理的性状の変化を指し、微生物的な過程は含まない。

試験に供する原油は、実際のバイオレメディエーション現場においても代表的と考えられる性状を有し、かつ試験毎の差異が最小であるものが望ましい。海岸に漂着した油の性状に近似した試験油を設定するため、原油程として輸入原油の代表的なアラビアン・ライト原油(Arabian Light crude oil)を選定し、加熱前処理(230℃)を行い風化させた油(以下、加熱風化原油と記す)が試験油として適当であることを確認する。

具体的には、加熱風化原油と恒温器で風化させた原油(以下、恒温器風化原油と記す)を比較し、重量減少率、粘度、分解率において差異が少ないことを示し、後述の試験の試験油を加熱前処理による方法で作ることに問題がないことを確認する。

加熱風化原油を試験油として用いる主な理由は、以下のとおりである。

 

?加熱風化原油を用いることによって、分解試験に際して揮発による原油成分の逸失が起こらないため、微生物による分解をより正確に評価できる。

?加熱前処理を施さない生原油は揮発成分を多量に含有するために刺激臭を発し、研究者等の健康に影響があるのではないか、と懸念された。

 

 

 

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