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は じ め に

 

私たちの郷土埼玉には、標高1,600mを越える亜高山から潮汐の影響を受ける低地河川までの多様な環境がコンパクトに集約されています。かつてはその上を原生林やヨシ原などの豊かな植物群落が覆い、多種多様な生きものたちであふれる豊かな自然環境がみられました。また、人々は豊かな自然の恩恵をふんだんに受け、地域に適した農耕や狩猟を営み、武蔵野の文化を育んできました。

ところがこの数十年の間に、人口は爆発的に増加し、また私たちは自然の回復能力を越える勢いで自然から物質的な富を引き出してきました。その結果、生物の生息環境の多くは修復が困難なまでに破壊され、多様な生物相を急速に喪失していきました。その様子は「さいたまレッドデータブック」(1996,埼玉県)により、克明に語られています。

私たちは子孫の繁栄の源となるべき自然環境を食い荒らすことに対し、あまりに無神経過ぎはしないでしょうか。今を生きる私たちには、わずかに残された自然環境を確実に残すとともに、これまでに破壊してきた多くの自然環境は再度創出し、将来世代に引き継ぐ責任があるのではないでしょうか。

本研究は『埼玉県に現存する生物多様性の保持』をテーマに行いました。言い換えれば、多くの人口を抱える埼玉県において、人と生物多様性保持をどう両立させるのかを検討したものといえます。?T章には、その検討にあたって参考にした欧米環境先進諸国の取り組みを紹介します。?U章では埼玉県の自然環境の特徴を概観します。そして?V章では本研究の成果品である3枚の地図の作成手法と今後の課題を著します。これら3枚の地図は、生きものの生態学的知見に基づき生物多様性の喪失をくい止めようとした、いわば生きものの側からみた『人との共生プラン』といえます。

これらの地図が埼玉の自然を守るための土地取得や土地利用計画、開発規制の意志決定を行う際の情報として利用されることを願って止みません。

最後になりましたが、本報告書の作成にあたり貴重なご意見を寄せていただきました埼玉大学名誉教授の石原勝敏先生、埼玉昆虫談話会の牧林功先生、埼玉県立大滝グリーンスクールの町田和彦先生に深く感謝いたします。なお、本研究は(財)日本船舶振興会の助成を受けて実施いたしました。こころから御礼を申し上げます。

 

平成10年3月

(財)埼玉県生態系保護協会

会長 池谷奉文

 

 

 

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