(5)生物学的修復方法とそれに対する関係者の受け止め方
関係者の話を総合すると、今回の事故で、海上や海岸での汚染除去活動に生物学的環境修復手法(バイオレメデイエーション)が直接適用されたことはなかった。しかしながら、そのような手法の存在することは知られているようで、特に石油輸送や石油精製の過程で出る廃油などの処理に対する手法としては有望視していて、公にされてはいないが実際に適用されているともいう。この国では技術の適用に関して住民のコンセンサスを得ながら事を進めるといった状況にはなく、政府が適当であり必要であると認めるかどうかにかかっている。政府の判断に有識者が意見や要望を述べる事はあっても、そうしない事に対する反対や批判の声や運動はやりにくい国情を考えると、バイオレメディエーションの導入に関しては、政府が試みを認めさえすれば、日本よりも却って速く実用化が進む事も予想される。実際、今回の事故では、バイオレメディエーションの効果についての観察的な実験が行われている。実験に参加しているシンガポール国立大学のチョウ氏によると汚染現場に栄養剤を与えて分解の速度変化を調べる程度のものである。ラッフルズ諸島の灯台あたりで行なったあと、軍などの要請もあり、他の島々でやや本格的な実験を始める予定という。軍の管轄にあるような島での実験だからといって秘密裏に行う必要はないが、あらかじめ住民のコンセンサスを得ておくなどの必要もないといえる。冬でも温暖で微生物の分解上、水温などの面で有利な環境にあることからその成果が期待される。