あ と が き
船舶交通の輻輳する東京湾、伊勢湾および瀬戸内海の三海域における航行安全性の向上のための調査研究対象として、海上交通安全法の各航路において表示が義務付けられている「行先の表示」、ならびに来島海峡の航行安全対策の二つのテーマを選定した。
(1)海上交通安全法「行先の表示」
海上交通安全法の全航路における現行の行先信号に関する操船者を対象とした意識調査の結果、(社)東京湾海難防止協会の東京湾における行先信号の改善に関する提言(平成2年11月)、新しい信号方法に関する既往調査等について検討した。
現行の昼間信号については、信号の複雑さ等から誤信号や信号の不表示が見られる、乗組員の少数化等により航路内での掲揚や揚げ換えはきわめて不便であるとの指摘等、夜間信号については、音響によるため信号を行っている船舶の特定が難しいとの指摘等が多く、信号の見直しが必要であるとする者がアンケート回答者の73%に達した。
検討の結果、現行の信号の基本原則は堅持し、すべての航路で統一性・共通性を保つとの原則のもとで、
?昼間信号については、
*第1代表旗および第2代表旗の使用に関する原則を統一する。
*二つの航路を連続して航行する場合も、途中で揚げ換えをしないで航行しようとする二つの航路が識別できるようにする。
*掲揚開始地点は、浦賀水道航路および明石海峡航路においては同航路に入った時、横須賀港から浦賀水道航路を横断し中ノ瀬航路に向かう時は横須賀港の区域を出た時とする。
?夜間信号については、
その効果について若干の問題点が指摘されたが、現行どおり音響信号を用いて、前項第1項に関連するものを除き、現行のままとする。
内容の改善策を取りまとめた。
この改善策は、行先信号がより複雑となることを避けつつ、航路航行中の掲揚または揚げ換えが不要となる等の点において有効であり、運航実務者がより実施し易いものと考えられる。
(2)来島海峡の航行安全対策
来島海峡の航行安全対策については、これまでもいろいろな機関において、いろいろな問題の調査研究が為されているが、どちらかと言えば経験則に重きをおいた操船技術上の観点からの調査研究が多かったと理解される。
本調査研究では、来島海峡のように地形が複雑で強い潮流が有り、さらに船舶の輻輳する海域においては、船、人、環境をひとつのシステムとして評価し、航行安全対策を検討する必要があるとの観点から、言わば理論的、学術的なアプローチを行った。
すなわち、強潮流と特殊な航法という来島海峡の航行特性を評価するために、