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平成9年度

国際理解のためのアジア文化講座「東南アジア」

 

(1)総論「アジア認識の基礎」

日時:9月16日(火)13:30〜15:30

場所:きゅりあん(品川区民総合会館)6階大会議室

金子 量重

(財)アジア民族造形館理事長

アジア民族造形文化研究所所長

 

はじめに

世界の人口は59億だが,アジアには37億の人が住み,50近くの国が存在する。アジア大陸の東北の海上に位置する日本列島は,数千年の長きにわたり,周辺のアジア諸民族の渡来と彼らが将来した生活文化,信仰,造形技法などのおかげで,今日の発展の基礎を築くことができた。にも関わらず, 日本は明治以来の西欧からうけた機械化の波と,戦後近代文明という便利さだけのアメリカー辺倒の道を走り続けてきた。そのためにこの偉大なアジアを過去1世紀以上にわたり蔑視しつづけた。これは日本歴史上の汚点であり,かつ未来のために大きな損失といえよう。

 

アジアとは

アジアを学ぶには,西欧起源の「近代国家」(Modern state)や「国民国家」(Nation state)の政治概念では,正しく理解することはできない。地球上に存在するすべての人々は,この「国家」概念ができる以前から堂々たる生活を展開している。とくにアジアは数世紀にわたり,資源略奪を目的とした白人の植民地支配に苦しめられた経緯がある。そのためアジア関連の資料は,支配者たる西欧学者の発言が主流をなしてきた。日本の研究もまた,長い間,借り物の理論や物差しで計る習性がまかり通ってきた。このへんでアジア人の手によるアジア論を構築することこそ, 21世紀にむけて重要になろう。本来アジアには国を基盤で支えている「民族」が存在し,彼らを無視してはアジアの認識は不可能に近い。アジアを学ぶにはさまざまな方法があろう。東南アジアを例にとると,メコン河沿いの北タイ,あるいはまたラオスやミャンマーに接する地域では,それぞれの国民が自由に往来できる。国家成立以前からの少数民族のしきたりを,政府が尊重するからである。また砂漠の遊牧民はラクダやロバを駆使して,数カ国を自由に交易して歩く。

 

民族とは

「民族」とは,「(1)同じ自然環境(平地,高地,島,砂漠,海,川沿い,温帯,熱帯,寒帯,四季,乾季と雨季)のもとで暮らし,(2)同じ生活様式(高床,土間,折衷様式,木造,石積み,洞窟,水上,樹上,農,魚,牧,森林など)と生活信条をもち,(3)共通の信仰体系(宇宙,自然,精霊,仏,キリスト,イスラムなど)をもち,(4)同じ言葉で話し,同じ文字を書き,(5)血縁と地縁で結ばれた人間の集団をさす」と考える。中国には漢民族のほかに54族,ベトナムには越(ベト=キン)族のほか53族,ミャンマーには135族。16,000の島々からなるインドネシアにはそれなりの数の少数民族が住んで独自の生活を営む。これらの民族の歴史は古く,数千年の長きに及ぶ人々もいる。また南中国に出自を持つ民族が東南アジアに移動して住みついた民族も多い。それらを見分けるには,形と色に特色のある民族服が一目瞭然で,女性の英知の素晴らしさに感動する。たとえばミャオ(苗)はベトナムではモン族となり,タイやラオスではメオ族とよばれるが,いずれも生活様式には共通のものがある。その衣服も,砂漠をラクダで横断する民族は,シャルワールというズボンをはき,農耕民族は深い田圃に入るので,短めのスカートをはく。

 

 

 

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