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芸術(Art)から民族造形(Ethno-Forms)へ

これらの“もの”に対する従来の概念では,絵画や彫刻は「美術」,実用品は「工芸」の語に一括し,長い間主流をなしてきた。これまた西欧の[Art and Craft]の訳語だが,本来ラテン語で[手を加えたもの]の[ars]に由来し,のちに技法や技巧の意も加わる。近代西欧では英語の[Art]やドイツ語の[Kunst]は,もっぱら個人作家の絵画や彫刻を重要視して,その様式に基準をおき,それにあわないアジア,アフリカ,中南米の“もの”を「野蛮」「未開」「奇妙」と称して蔑んだ。その風潮をうけいれた明治期に,これを意味不明な「芸術」と訳した。ここでも西欧一辺倒がたたり,その後100年,わが公教育はこの偏りの多い美術教育を,疑問も改変もなくつづけて今日にいたる。

アジアには暮らしの場で造り使う多様な“もの”が満ちている。これらを調べることでアジアの生活文化の真実は明らかになり,そのうえ,西欧の作品など遠くに及ばない“もの”の多いことに感動するとともに,日本人の“アジア知らず”の怖さをも感じた。過去30年にわたりその実情を調査した結果,これらの“もの”には,「地域性」「民族性」「時代性」がひそんでおり,とくに強く現れるのが「民族の造形感覚」であることを確認した。そこで,これまでの西欧一辺倒の芸術至上主義を排し,これらの“もの”に新たな用語が必要と痛感。「ものを造る」という普通名詞の[造形]に,“先進”“後進”と差別認識を含む「国家」という概念ではなく,文化概念の[民族]を冠して,『民族造形』(Ethno-Forms)の語を用いることにした。

 

民族造形の分類

本来“もの”は,すべて日常に使われるものであれば,使う立場からの分類が妥当なので,下記のように分類した。

衣の造形(冠,笠,帽子,頭巾,民族服,履物,鞄,布帛,装身具)

食の造形(貯蔵,調理,飲食)

住の造形(家具,膳,寝具,敷物,涼,暖房具,灯火器,清掃具,嗜好品容器)

祈りの造形(神仏像,埋葬,経典,荘厳,祈祷,献銭,護符,装束等)

学びの造形(文房具,硯,墨,筆記具,書物,手帳,日記,地図,暦等)

芸能の造形(舞台,幕,楽器,採りもの,衣服,楽譜,仮面,人形等)

遊びの造形(玩具,遊具,人形等)

生産の造形(農,漁,狩り,牧,木こり,陶磁器,染織,紙漉き等)

とくに「祈り」や「芸能」の造形は,古くからの伝承にもとづく,無形のもの(神話,伝説)が多い。かかる神仏に関わる物語や舞踊及び音楽がどう造形化されたものかも,これからは積極的に調査されるべきだと考えて,それぞれの項目に含めた。

なお,広大なアジアの民族文化を理解する手立てとして,下記のように4つの地域を便宜的に国名で分類した。

 

 

 

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