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しまうが、伝統的な町並みという見方からすると、わたしたちは、この地域の地理学的な景観や人々の生活空間にも関心を払うべきであろう。街村の中心部は北下がりの台地を東西に走っている。街道の視野を東にむけると野瀬山が、西にむけると愛宕山の南面の丸い稜線がスカイラインを成して美しい。でも、せっかくのこの眺めを多数の電柱と電線が損なっているのは勿体ない気がする。街道の幅員は7〜8m、地形になじんだ緩やかな高低と曲がりがやさしい景観を成している。現在はアスファルト舗装の車道で中央に融雪パイプが埋められている。舗装を打重ねてきたために昔に比べて路面が20?くらい高くなっているようにおもわれ、それだけ家並みが低く見えるのでなかろうか。平行して国道バイパスが通っているので通過交通量はほとんどない。しかし道幅の中央は車線で盛り上がっているので傾きのある両脇を行く歩行者にとってこの道は快適とは言い難い。足元に気をとられて由緒ある町並みも鑑賞しておられない。

北下がりの地形・石灰岩の地質からしてか、この町は何本かの河川を横切っている。また伏流水も豊富なようで泉水や井戸も数多い。街路の勾配にもよるが、道脇の細い水路に流れが音をたてている。これを遣り水として前栽デザインに取り込んでいる家もあるが、概してコンクリート板で覆われた暗渠になりつつあるのは残念におもわれる。

 

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街道の町並みというと、通りに沿って割り付けられた敷地に店舗や格子窓の民家が櫛比する景観を想定されるが、柏原宿の場合、商家風と農家風が混在し、新しい邸宅も増えているので、妻籠や馬籠のような歴史的復元タイプの町並みとはちがって、さまざまな時代の空間を眺めることができる。本陣や脇本陣の跡、数多い神社と寺の境内などには風格のある樹林や園地があり、河川や横道もあり、景観要素は多様である。多様だから混乱しているというわけではない。新築の家屋でも、瓦葺きで木造ベンガラ塗りの伝統構法のものが主であり、かつ、駐車場の関係もあってセットバックした空間を前庭として工夫をこらして、街道にむけての配慮と自己表現をみせている。伝統的な重厚な様式の家屋は、家並みの約3分の1をしめてているが、老朽化したままであったり空き家になっている家屋も目立つ。原型としてのこれらを朽ちさせ消滅させることは、町がまちが歴史の顔を失うことである。どのように改修して現代の住生活に活かすか、また空き家の活用をどうすすめるかなどの課題が生じている。

 

5.町並みとは住民のこころのあらわれ

このように柏原の町を観察してみると、歴史街道といっても名所旧跡を観光ルートでつないだような末来像は考えにくい。歴史を大

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