野 中 例えばモータリゼーションということを一つを考えても、かつてアメリカの開拓というのは西へ西へ鉄道、線路を引っ張っていくことが1つの発展のバロメーターだったわけです。その後、道路交通と鉄道の業界がロビー活動で激しく競争して、最後に自動車の方が勝って当時の政権は、もう鉄道の時代ではないと。今度は道路を引くことに対して優遇措置をとったという時代があったので、フォードやゼネラルモーターズ等の会社が起こってきたという歴史があります。結局は時代のモーメント、モーメントで、だれがイニシアチブをとるかということが産業政策と結びついて、今の世の中になったという経験を私たちは知っているわけですから、我々先進国がやってきた過ちみたいなものをクリアして、彼らが発展するという方法は必ずしも不可能ではないと考えてもいいわけですね。
木 村 いろいろ先進国の間違い、あるいは経験から学んで避け得る点はあると思います。ただ、アメリカの場合は、鉄道ロビー対道路ロビーのように、非常にアメリカ独自の背景がありまして、早く言えばミサイルを引っ張ってどこでも持って歩けるという、インターステイツ・ハイウエー・ネットワークをつくった基準ができたとか、そういう軍事的な絡みがある程度ありますので、それを途上国に当てはめるわけには必ずしもいかないという意味で、道路交通網対鉄道網、あるいはほかのモードとの絡み合いというのは必ずしも先進国ないしアメリカの経験をそのまま当てはめるわけにはいきません。ただ、パターンとしては非常に似た形をとっていまして、例えば人口当たりの車の数とか、経済規模当たりの車の数というカーブでいきますと、それはもう本当に全く同じように、ただ、途上国の方がレベルが下、数が低いというだけで、傾向としては同じカーブをたどっているわけですね。ですから、時の経過とともに問題が深刻化することはもう見えているというようには言えると思います。
野 中 中国の場合は、やはり鉄道志向型から道路志向型に移っていきているという流れで進んでいると考えてよろしいですか。
木 村 この点は、ある程度世界銀行も責任があるのかもしれませんが、中国政府は昔、レールチャイナというポリシーを持っていたのです。結局、それだけでは発展していく経済についていけなかったわけです。中国の鉄道網は非常に発達しておりますし、メンテナンスのレベルも非常に高く、何十万人、何百万人もの労働者がいろんな鉄道及びその関連企業に属しておりまして、大変なメガロインダストリーですけれども、それでも経済の規模、交通量の需要には合わなかったということで道路建設が必要になったわけですね。それは決して悪いことではありませんし……。