は明確に確立されておらず、利用形態の主体の価値観の多様化、さらには海域の開発と保全あるいは自由使用と規制といった象徴的な問題を含めた体系的かつ実証的な研究は、未だに発展途上の段階にあるといわざるを得ません。今後は、海域利用調整の様々なパターンの事例の積み重ねにより、新たなモデルを実証的に研究する必要があります。
また海の基本法理あるいは海域利用の法的性格の側面からは、法定外自然公共用物である海の平等かつ自由な使用に基因する問題、あるいは海域における優先利用順位が決定できないといった問題があります。さらに戦略的側面からは、競合の度合や世論の問題意識、意思決定における個人の最大基準から社会の満足基準への移行等、人間関係論的もしくは行動科学的ファクターを考慮する必要があると思われます。
海域利用調整のマニュアルにしたがって合意形成を試みる初期段階において、もっとも重要な問題として考慮しなければならない事項は、海域利用調整組織であると思われます。有能なスタッフやノウハウを有する機能的な運営組織が設立されることが、海域利用形態間の競合における合意形成の成功の鍵を握っているといっても過言ではありません。その意味からいうと、既存の海上安全組織に常置の総合的な海域利用調整組織をつくり、様々な海域利用調整の問題をそこに集約することは、今後予想される海域利用形態間の競合を解決する海域管理手法の一つのあり方であると思われます。
プレジャーボートの悲惨な事故例
元広島海上保安部次長 成清正人
私たちがレジャーに使っているボートの事故には、どんなものが多いのかは、皆さんはすでに十分ご存じのことと思いますが、今日は、私が海上保安に40年在職中に体験した主な事故例を幾つかお話して、これらの事故原因を、それぞれ皆さんにお考えいただき、その結果が、小型船の事故を一つでも減らせることができればと思いペンを取りました。
●ある夏の暑い日の夜、某会社の社長さんが行きつけのスナックでご機嫌になり、「涼みに行こう」と若いホステス二人を自分のクルーザーに乗せ颯爽と出港して涼しい夜風の快適さに我を忘れ、ホステスとの話に夢中になって、30ノットの高速のまま橋桁に激突、三人とも瀕死の重傷を負った。美人ホステスの顔には大きな傷跡が残ってしまった。
●ある朝、釣りに行くために、クルーザーで出港した人がみなとを出て広い海域に達したため、安心して航行しながら釣りの仕掛けを作り始めた。同時刻、古い釣り船に小学3年生の孫を乗せて釣り場に向かっていた73才のお爺さんを追い越す形となったことに気付かず、釣り船の右舷後方から左舷前方へ斜めに飛び越した。船尾で舵を取っていたお爺さんは、背中をクルーザーの船首に直撃されて海に突き落とされ、救助されたが植物人間となってしまった。
大事故に驚いた人は、そのまま逃走したが、釣り船の中で寝ていて奇跡的に無傷だった少年が「ドーンという大きな音がして、頭の上を風が通っていった」と供述したことから、釣り船を詳しく調べると、わずかな擦過痕があり、その結果、逃走したボートを割り出し、男は逮捕された。
●ある夏休み中に、ある人が中学2年生の甥とその友達の二人を釣り船に乗せて海水浴に出掛けた。2時間ばかり遊んだ後帰ろうとした際、甥が「もっと泳ぎたい」といったが、仕事のため帰らなければならず、「それなら曳航してやる」と、友達に右舷からボートフックを船と直角に突き出させ、その先端に甥を掴まらせたまま静かに前進を掛けた。
しかし、急に両手に激しい水圧を受けた友達は、ボートフックを支えることができず、甥はボートフックに掴まったまま、自船のスクリュウに巻き込まれ、大腿部に大怪我をしてしまった。
●妻と二人で、クルージングにでた人が、燃料が少なくなったのに気付き航走中に補助タンクからガソリンを補給して航走を続けていると、いきなり後部のエンジンルームでドーンと大きな音がし、激しい熱気に驚いて振り