て具体的な利害衝突が表面化すると、当事者が感情的になることも予想され、調整作業の円滑な運営の大きな阻害要因に発展する場合も有り得ます。そもそも海域利用調整の構成メンバーの活動目的や行動形態は本質的に異なっており、人的側面の各種の前提も必然的に相容れない複雑な様相を呈しています。また常時その海域を利用する者であれば、自己にかかわる利害関係が生じ易いので、積極的に海域利用調整の場に参加する意思もあるし、居住地との関係からも比較的参加しやすい環境にあります。ところが閉鎖的海域以外の海域では、原則的には誰もが利用可能であることから、すべての利用者に対して調整事項の遵守が期待できない面もあります。さらに自主的安全組織等に属さない一部の海洋性レクリエーションの愛好者は、海域の競合という認識さえない場合が多く、海域利用調整の対象海域で無責任な行動をとることも予想されます。
具体的な競合が発生した場合、まず何から着手してよいのか、また何が必要なのかといった疑問にこたえる基本的な手順・方針が必要となってきます。しかし海域利用調整自体の歴史が浅く、成功した具体的事例も少ないために、海域利用者のコンセンサスの得られる理想的な手法が見いだせない状況にあります。さらに慣習その他の地域的特性が各地に存在し、特に地域住民にとって一般的な手法は過去の経緯から受忍できない場合も有り得ます。したがって、まず海域利用調整を実施する際に必要となってくる事項を標準化した調整マニュアルを検討する必要がでてきます。
3、海上交通の安全を目的とした海域利用調整(合意形成)マニュアル
実証的研究の少ない現段階で、一般論への方向付けを考察することは困難ですが、ここでは海上交通の安全という見地から、海域利用調整を行う際に役立つマニュアルモデルについて説明します。
?競合を有する利用形態間の会合――ある種のコンフリクトを契機として、不可両立的な目標を指向する海域利用形態の主体が具体的な競合を認識し、当事者間の交渉あるいは話合いのみでは競合回避が不可能であることを相互に理解します。
?調整組織の設立と参加への呼びかけ――調整に関してイニシアティブをとる者が中心となって、より多くの利害関係者、関係団体等の参加を要請します。
?学識経験者および調整者の人選――問題解決のために必要な専門的知識あるいは客観的評価基準は、当事者間の合意形成プロセスにおいて有効な手段になり得ます。
?現状の認識と問題点の抽出――調整の場が設定されたならば、価値体系の異なる関係者が一同に会することにより、相互の基本的な立場を認識することが可能となります。
?意見交換と相互理解――当事者の一方的な主張が出つくしたら、互譲精神に則って意見交換することにより、積極的に相互理解および譲歩に努めます。
?調整に関する代替案の提示(手法・手段の選択)――代表的な解決手法としては、海域利用空間の場所的時間的制限(利用のルール化)たるゾーニングがあります。
?客観的な安全評価基準の認識――当事者間だけの合意では、公共性を有する海上交通の場の調整事項としては不十分な場合もあるので、客観的な評価が必要になります。
?代替案の評価――複数の調整案について、当事者の利害の観点から判断するとともに、その他の評価基準も考慮して、調整組織として総合的に判断します。そして総意に基づいて、もっとも望ましい形の調整事項を決定します。
?実施――明文化された調整事項を海域利用形態の主体すべてに対して周知徹底するとともに、実施に際して不可欠な措置(例えば、ゾーニングを示すブイ、調整事項の掲示)を講じなければなりません。
?実施状況の把握と実効性の確保(場合によっては?にフィードバック)――海域利用調整の決定事項の遵守状況を常時把握し、問題点が惹起されたならば、新たな海域利用秩序の構築を目指して、関係者が調整の場において再検討しなければなりません。
4、おわりに
ここでは、今後予想される海上における利用形態間の利害衝突を回避するための一手法である海域利用調整の問題点やマニュアルについて説明しました。しかし海域利用調整という概念