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返ると、すでに船内が火の海となっていたため、慌てて妻と二人で海に飛び込んだ。さいわい二人とも付近で操業中の漁船に無事救助され生命に別条は無かったが、背部に大火傷を負い、クルーザーは全焼してしまった。

この船は、右舷の舷側に燃料補給口があって、舷外から補給するような構造になっていたのに、無理してガソリンを補給したため、零れたガソリンがエンジンルームに流れ込み、エンジンの熱で発火した結果だった。

●ある夜遅く、夜釣りから帰り、ボートを繋留しようとしていた人が、酔った若い外国人船員二人に、沖合に停泊している船まで連れていってくれないかと頼まれた親切な人が、二人を来せて直ちに後進で船を出した。

やっと、自分の船に帰れると安心した二人の船員は、船尾に立ったまま、抱き合ってふざけていたが、後進のショックで二人一緒に海に落ち、スクリュウに巻き込まれて、二人とも死亡してしまった。

●レーダー、その他の航海計器を完備したクルーザーを買った人が、次の日曜日は濃霧注意報が出ていたが、どうしても乗ってみたくて、友達三人を乗せ試運転に出た。案の定、霧が濃くなってきたが、その付近の海域は熟知していたので、安心して35ノットの高速航行をしていたとき、いきなり船首部にドカーンと大きな音とショックを感じ、全員が後ろに飛ばされ船体各部に叩き付られ、全員が全身打撲の重傷を負った。

霧のため、コースを大きく外れて岩礁に乗り上げ、クルーザーは全損となった。

私が、ここに挙げた事故例は、すでに皆さんがお気付きのように、自分がほんの少し気を付けておけば防げたものばかりです。しかし、海上保安が取り扱っている事故の大半はこうしたものなのです。

そして、その結果があまりにも悲惨であり、被害者はもとより、被害者と加害者の家族などに与えた影響は計り知れないものがあります。

皆さんも、その悲惨さに驚いておられるのではなしでしょうか。

それから、皆さんご存じのように海上保安は事件事故に備えて、24時間当直をしていますが、私が当直に当たっていたある深夜のこと、緊迫した雰囲気で中年の女性から電話がありました。

その内容は「夫が、友達と船で釣りに出掛け夕方には帰るといったのに、まだ帰らない。事故かもしれない。探して欲しい」というものでした。

しかし、この奥さんは、ご主人の船の特徴も、釣り場も、一緒に出掛けたはずの友達の名前も人数も何も知りませんでした。

そして、ただ「海に出掛けたのだから、海を探してください」の一点張りでした。

これでは、もし本当に何かの事故に遭遇していても救助が手遅れになることは明白です。

最近は携帯電話などの通信手段が発達してきて、こんなことは、少なくなりましたが、それでも、海に出掛けるときは、何時何が起こるか分かりませんので、最低限、

 

○どんな船で、どの海域へ、だれと出掛けて、何時頃帰る。

 

くらいは、家人などに伝えておいて頂きたいと思います。そして、自分の船のカラー写真を、船首部・正横部・船尾部と作成して、家人などに預けておけば、捜索時に役に立ちます。できれば真上からのものも作成しておけば、ヘリコプターでの捜索時に威力を発揮します。

最後に、もう一つお願いがあります。私は海が大好きで子供のときから海に育てられ、そして、現役40年勤務し家族を養ってこられました。

退官して今は、せめて少しでも海に恩返しをしようと、海洋環境保全推進員として、美しい海を次の世代に残すためのボランティア活動をやっております。

同じく海を愛されている皆さん、海には、決してゴミを捨てるなどして、海を汚すことのないようにしましょう。そして、私たちの子や孫たちを私たちより、もっと美しい海で楽しく過ごさせてやりたいではありませんか。

拙い文を、最後まで読んでいただいてありがとうございました。

皆さんが、海難事故に遭わないように心からお祈りしております。

 

 

 

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