5.4 海氷移動の数値シミュレーション
ここでは、単純化した海域での海氷運動を連続体モデル、個別要素モデル及びDMDFモデルを用いて数値計算を行い、モデルの特性を比較する。計算の領域は、図5.4.1のような複雑な形状の海岸を有する領域において行った。図5.4.1の境界と海氷の分布は、実際の海氷域を比較計算のために単純化したものである。計算では海水の流れはないと仮定し、海氷は風によって流されるとした。計算に用いた海氷と空気の間の抵抗係数は0.00065、海氷と海水の間の抵抗係数は0.005である。連続体モデルとDMDFモデルの計算で用いた格子の大きさは、dx、dyともに10kmである。海岸と西側の境界ではNo Slipの条件を、東と北側及び南側の境界では0次流出または、0次流入の条件を用いた。
図5.4.2は連続体モデルとDMDFモデルを用いた数値計算により求められた48時間後の海氷の分布である。DMDFモデルと連続体モデルでは、一般的に使われている海氷域の表示をそのまま、計算の条件として取り扱うことが可能であり、計算例のような海氷の相互作用が小さい海氷域での海氷運動に対しては、おおよそ一致した結果を示している。ところが、図5.4.3に示す個別要素モデルを用いた数値計算では、計算の簡略化のために直径6km〜10kmという大きな氷盤を敷き詰めたような初期条件で計算しているため、氷の密接度分布としての比較は困難である。しかし、全体的な氷の運動の様子は、他の2つのモデルのものと同様である。
5.5 まとめ
海氷モデルは、海氷の生成・消滅過程を取り扱う熱力学的モデル、及び移動・変形を取り扱う力学的モデルの2つに大別される。現在までに海氷の力学的変動の数値解析モデルとして、連続体モデルと、個別要素モデル、海氷域を氷群に分割し、氷群の移動と変形の数値的解析を通じて、海氷運動を表すDistributed Mass / Discrete Floeモデルが提案されている。海氷が海面に連続的に分布する連続体モデルは、広い領域での海氷の変動を取り扱うのに適し、熱力学的モデルとの融合も容易であが、狭い領域での海氷の変動に大きく現れる海氷の離散的な特性を表現できない。