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そして、その文化団体同士が、普通日本の場合でもそうですが、それぞれが自分たちの団体こそが一番なりと競い合っているわけですが、1つの劇をやるという中で大同団結をしていくわけです。その大同団結の中で、彼らは1つの劇に向けて、自分の村の歴史を演じていく。

そして衣装も村の主婦たちがみんなで力を合わせて作っていく。1,500人出たとすると、前の年に出た人たちは次はバックヤードに回って、着付けとかいろいろなお世話をするわけです。3,000人の人たちがその1つの劇に関わっているわけです。4,000人しかいない村の3,000人が1つの劇を作るために関わっていると。

そういうふうにして、6月から8月末の土日にそれを演じているわけです。そうすると約20回チャンスがあるわけです。バスでパリからも駆けつけて、今は大人気なんです。チケットが取れないぐらいなんです。1回に8,000人ぐらいの人たちに見せます。その村にはホテルもなければ、まともな商店街もないような村なので、隣の町に泊まっていただくという形で行われています。ひと夏に、1回8,000人で約15万人、4,000人の村が15万人の人を呼ぶわけです。

現在、村の予算の8倍の収益を上げているわけです。そうすると彼らはもう村なんかに頼っていません。村は村で勝手にやって下さい。自分たちが作り上げた収益で財団を作りまして、自分たちの野外劇の歴史を中心とした博物館を作るとか、あるいはそこにたくさんのバスを留めていただくための駐車場の整備をする、道路の整備をする。もうこれは1つの自治体と同じようなことをやっているわけですね。

そういうふうにして、彼らは自分たちの村をその野外劇を通して完全に自分たちの自治国家というか、自治村にしている。ですから行政に頼って、これをどうかしようということではないんです。そういうインパクトのある形で今展開されているんです。それを全くそのまま富山県高岡市の野外劇に流用したわけです。

 

高 田: どうもありがとうございました。

今のお話の中でも非常にはっきりしていることは、価値あるものは足の下にあると。大体こういう話をすると、「うっとこの地域には何も魅力のある文化がないしな」という嘆きが必ず出てくるんです。

 

広 野: ただ、その町も本当にないんですよ。とりたてて言う程の魅力は何もないんですが、ただナポレオンが通ったというだけで、それを劇の中に入れているわけですよ。

 

高 田: 実はそういう事例は日本の国内にもたくさん出てきていて、2つ紹介させていただきます。

まず高知県の大方町、ここはときどき鯨が沖合いを通るのと、町の物産としてはらっきょうしかなかったんです。ところが海辺に打ち上げるゴミが非常に多いので、これをみんなで集めたらおもしろいのと違うかと。ただ集めるだけではなくて、集め始めますと、こういう100円ライターがいっぱい集まるということがわかったんです。僕は無色透明のライターを使っていますけれども、赤とか青とか黄とかいろいろな色がある。たくさん集まってきたらこれで絵を描こうじゃないかと。ゴミ集めだけだったらちっともおもしろくないわけですけれども、何千と集まった100円ライターで巨大な絵を作る。砂浜美術館というのですが、これでどかっと人が来る。ついでに鯨を見て、らっきょうを買って帰る。

あるいは愛媛県の内子町、ここには80年前に建った非常に古い内子座という芝居小屋があるんです。その芝居小屋は何に使われていたかと言いますと、20年前には農協の事務所に使われていた。天井が高くて寒いので、こんなものつぶしてしまって、自動車の駐車場にしようという意見が出てきたのですが、中に知恵者が1人か2人いて、これから芝居が当たるかもしれないと言うわけです。

本当なら数億円、数十億円かかる文化センターの代わりに、この内子座を数千万で修理したんです。そこに首都圏で活躍している歌舞伎役者を1人連れて来て演じさせたところが、この役者がのったというわけです。客席と舞台の問が非常に近接しておりますので、一生懸命演じれば演じるほど、お客さんの目がこっちに集中してくる。一生懸命見られると芝居にも力が入る。ますます観客の方は喜ぶ。首都圏の大きな劇場で演じるより、本当の芝居はこういうところで演じる方が楽しいなと。

文字どおり神崎さんが冒頭におっしゃったように、その土地の人と役者との間にお互いに与え合うものが生まれてきた。そうすると、そんな芝居だったらぜひとも見たいというので、首都圏からもツアーがやって来るようになった。これは決してうまいこと話をしているのではなくて、そこの土地の人に町づくりを進めている若いお嬢さんに聞いたところ、「内子座が成功するまでは値打ちのあるものは東京にあるのだ、パリにあるのだ、ニューヨークにあるのだと思っていたけれども、足の下にあるんですね」というふうな話を聞いたことがあるんです。

実は今日のお三方の話というのは、ちょっと知恵を使えば冒頭に皆さん方がおっしゃったことを、いくらでもどこでもできると言うことなんです。もちろん運というものも作用するでしょうし、知恵者がいないとか、汗かく人がいないというような、そういう地域は、これは仕方がない。すべてがうまくいくというようなことはこの世の中にはないわけでありますから。

ところで今日は外国からもたくさんのお客さんが見えておられます。インドネシアの方は所用でお帰りになったようでありますが、お二方、コリア・ツーリズムリサーチ・インスティテュートの崔先生、それからフィリピン観光省のラゾ先生がおいでになります。

時間がかなり押しているわけですが、お二方には今日冒頭に近いところで事例報告をしていただきましたが、今、日本の我々の状況というものを聞いていただいて、これは観光交

 

 

 

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