で文化というものにうまくすり替えしていった。これがイギリスの1つの例かなと思いますね。
高 田: 実は今グラスゴーの話が出てまいりましたが、グラスゴーというのは文化とは無縁の工業都市だったんですね。これがなんで文化を掘り起こすようになったかと言うと、きっかけがあります。ギリシャの文化大臣をやった女優さんでメリナ・メルクーリという人がいます。僕らの年輩の方だったらご存じだと思いますが、『日曜はダメよ』という娼婦の話なんですが、日曜はお客はとらないよというそういう映画がありましたが、それの主演女優です。この人をギリシャの文化大臣に抜てきしたんです。そのときにメリナ・メルクーリは、アテネを第1回目にして、ヨーロッパの文化首都、フェスティバルみたいなものを演出していこうと考えて実現した。その何番目かに立候補して、それを実現したのがグラスゴーであります。別にこれをそのまま二番煎じする必要はありませんけれども、日本なんかでもそういうことを考えもいいのかなと思うわけです。
実際、そういうプロセスも経て近代工業遺跡を残したりするわけですが、それを同時に使っていく工夫もあり得るわけですね。例えば現在各地が文化を振興しなければいけないというので、新しい文化ホールを建てて、劇場を作って、ものすごいお金を投入しておられます。しかし逆にちょっと角度を変えて、宇治の平等院でツトム・ヤマシタのパーカッションの演奏、太鼓たたきとお坊さんの声明をくっつけたコンサートをやる。そうすると、今まで聞いたことのない、見たことのないすばらしいコンサートができる。というので、延暦寺でもそういうことを始め出しました。
実はそういうことから考えてみると、かつては金属加工をやっていた工場の機械がまだ置いてあるようなところで、バレエの公演をやったりすると非常におもしろいものができるかもしれない。
井野瀬: 町とか、都市とか、そこにある地域がやればできるんですよ。グラスゴーの場合も徹底してグラスゴーの町がやりましたから、イギリス政府がどうのこうのをすっ飛ばしたところでの話だから、多分成功例になったんでしょうね。
高 田: というので、そういう成功例がフランスにもあるという話をちょっと聞いたんですが、広野さん、いかがですか。
広 野: 先ほど申しました高岡市のイベントの野外音楽劇なんですが、それをやるにあたって、先ほど申しましたわが町の再発見、再認識をするために何をしたらいいのだろうかと、その悩みから見つけ出したのが、パリからバスで行きますと10時間近くかかるんですが、ロワール川沿いにルピデュフという村があるんです。これは人口4,000人の村なんです。ここは日本と同じように、ほとんどの若者が都会に出ていく。そして4,000人のお年寄りたちが細々と農業をやっている。ただその村にある資産といえば、だれも住んでいない古びた、もう崩れかけたお城跡が1つだけ。しかしこれをどう活性化しようか、若者たちをどう定着させようかと、その村の人は考えたのです。そのときに、私が先ほど申し上げましたように、人を呼ぶことを考えたのではないんですね。そのときに大切だったのは、自分たちの村の良さをもう一度自分たち自身が再発見、再認識しようとして考えたわけです。そして、それにはどうしたらいいのかということを考えたわけです。
伝統的にフランス、ヨーロッパではいろいろな野外劇が行われているわけですが、それを彼らは自分たちの村にどうやって取り入れようかと考えたんです。これはヨーロッパでよく言われるのですが、形として残すのではないのだ。自分たちの歴史とか文化は大衆の記憶の中に残していくのだ。そのことは彼らが常に言うことなんです。
今から30年前、村人が集まりまして、夜な夜な会議をしまして、そこで自分たちの村の古代から現代までを自分たちで演じてみよう。ただし、これはおもしろくなければ続かないだろう。おもしろいものにしようよと。おもしろいものにするためにはどういう工夫がいるだろうか。テレビで見ることしかできないような、例えば日本で言えばユーミンのショーのような、花火が上がったり、照明がチカチカして大音響の中でやるような、ああいう舞台にこの田舎でも立ちたい。そういうことを考えたわけです。そうすると若者たちもそれに出てくれるかもしれない。そして、それを見に来る人もいるかもしれない。
それで彼らは自分たちの歴史のことを脚本に書いてくれませんか、とパリの大先生に頼みに行ったわけです。彼らのことに感動した脚本家が、じゃあやりましょうということで脚本を書いてくれる。すべて音はテープにとるわけですが、ナレーションは超一流の俳優にお願いする。そして音響、照明、特殊効果というようなものは、すべて今の最先端を行くものを使おう。ただし、やる筋立ではその村の古代から現代までの歴史なのだと。そういう仕掛けを作ったんですね。
その中身なんですが、それは村民が約千数百人出演するんです。その舞台となるのは、先ほど申し上げました古ぼけた城跡なんです。回りに小さな湖もあるんですが、景観にして約400×300mぐらいの自然のお城を中心とした舞台をそのまま使うんです。観客は特設の観客席を作りまして、そこに座る。その中で1入に集中して演技が行われるわけではないんです。前の方ではナポレオンに追われた村民たちが歩いているかと思うと、はるか向こうのお城の中では戦争をやっているとか、あるいは湖の中に浮き舞台を作りまして、そこでバレエを演じているとか、いろいろなことがあるわけです。それらはすべて、その村が今までに培ってきた文化的資産を全部投入しているわけです。
例えばバレエの文化団体があった。あるいは民謡の文化団体があった。ボートクラブがあった。馬術クラブがあった。ありとあらゆる文化団体に出演を要請しているわけですね。