井野瀬: 私はまさにそのとおりだと思います。
高 田: そういういわば価値観を転換すること。これはものの見方を変化させるということにもつながります。今の井野瀬さんの話の中では、都市よりも田園の方が快適に暮らせるよという価値観の転換が1つ。それから便利なだけよりも不便にも値打ちがあるよというような価値観。
それからもう一つ、イギリスがやった非常に大きな価値観の転換の1つは、工場というのは物を作るところだ。物を作って、儲けるところだと考えていたイギリス人が、これは19世紀ではないですが、20世紀になった瞬間に、いろいろな古い工場で使用された道具とか、鉱山でいろいろな物を掘り起こす櫓とか、これはかつてはすべて生産のための道具だったのですね。そういうものが失われていく時代にきちんとそれを保存して、見て楽しみ、そこから何ごとかを学ぼうという、近代工業の残した工場の跡地、尼崎なんかに行ったらいっぱいあると思いますがそういうものを見て楽しみ、そこから何かを学ぶようなものに転換していくという価値観の転換も、イギリスは非常に上手に展開したのではないか。この話については、また後ほどお話しいただこうと思います。
もう一方、広野さんは今は西宮とスペインのバルセロナの間をいつも往復しながら、双方の町づくりを考えておられます。そういう町づくりの戦略といいますか、やり方のきっかけになったのは南フランスにあったようであります。南フランスのある小さな町で非常に強い感動を受けられて、それを日本でも応用しておられる。そういう立場からお話を頂戴したいと思います。
広 野: 私の仕事でやっていることしかお話しできないんですが、それはいろいろな市町村自治体の方から、私の町をどうかしてほしいと依頼をうけての仕事です。これは都市活性化とか、あるいは文化振興とか、あるいは町おこし、村おこしという形で呼ばれている仕事ですが、そういうものに参画させていただく話が大変多いわけです。
そういう話の席に、お手伝いするべく寄せていただきますと、町の中には大変熱心な方がおいでになるんです。そして昔はこうだった。でも今は廃れてしまった。これをなんとか元気にさせて、たくさんの人を外から呼びたいのだと。皆さんおっしゃるのはやはり人をたくさん呼びたい。そのためにはこの町が元気にならなれけばいけないのだけれど、どうしようかというのが悩みなんですね。それをどう解決するかというので、そのたび、その土地ごとにいろいろなアイデアを持って臨んだわけです。
ところが、成功した例というのは本当にないんです。そういう一つひとつの都市が、例えば提案したことに対して3年続けましたとか、5年続けましたと。5年続けたけれども、それを支えていく自分たちの町の中の人たちのエネルギーが続きませんでしたと。そういうことでせっかくおやりになったことも、大体5年ぐらいで消えていくんですね。そういうことで、外からも人を呼べない。そんなときに1つだけ、私が20年近くこういう仕事をやっていて、これは成功したかなどいう例がございます。
それは富山県高岡市というところで、10年前、市制100周年のときに創った野外音楽劇なんです。このことは後ほど詳しく話をさせていただこうと思いますが、それは千数百人の市民がその町の古代、中世、近代、現代にわたって、自分たちの町の歴史を自分たちで劇にするんです。そして、それも町の中心にある大変歴史的価値の高いお城跡の中でそういうものをやるわけなんですが、なぜそんなものをやって、それが10年、続いているのかというと、これは観光ということで話をさせていただいているのですが、まず人を呼ぶためには自らの町の人たちが元気でないといけないんです。そして、先ほど神崎先生もおっしゃいましたが、迎える姿勢といいますか、みんなで迎えてあげよう。そしてそれが自分たちの町に対する誇りといいますか、そういうものを持っていなければ、なにも自分たちの町を愛していない人たちの町に行って、楽しいはずがないんです。
私は今まで元気にさせてくれと言われたときには、何か人を呼ぶことを考えようと思ったんです。人を呼ぶことを考えた結果が、3年とか5年しか続かなかったんですね。
そこで1つ発想の転換をして、これは人を呼ぶことを考えてはだめなんだ。まず自らの町のことを知らなければいけないのだ。お年寄りの方は自分の町の歴史も全部知っていらっしゃいます。しかし若い方はほとんど自分の町の歴史について知らないんです。それから自分の町のどういう人たちが、どういう形でこの町を作ってきたのかということも知りません。そうすると自分の町よりも、東京の方が見た目はいろいろかっこいいわけです。そういうことで全国の日本の町は大変画一的になってしまった。
そういう中で私は自分たちの町に対する再発見をさせよう。そしてうちの町はこんな町だったのかということで再認識をさせよう。その再発見と再認識するということを基本に、私は町づくりを始めることを心がけていったんです。
その1つとして富山県高岡市の野外劇をやったわけです。これは先ほど申し上げましたように、自分の町の歴史を自分たちが演じるわけです。そのことによって肌で自分たちの町の歴史とよさを感じていきながら、それを私たちの町はこんな町ですよと人に言えるようになる。愛着を持つということ、そこがポイントだと思うんです。それが膨らんでくると、今度はこの町が元気がいいからということで、人がよその町から訪ねてくる。その訪ねて来た人たちかがまたそれを見て、「おお、なかなかいい町だ」と言う。外から来た人たちがいい町だと言う。そしてよその人からそういうふうに言われると、自分たちもうちの町も大したものだと思っていく。それが1つずつ相乗効果となって上がっていくだろう。
今町づくり、いわゆる観光というか、人を呼ぶためには、まず自分たちの町の新しい魅力、これまでの資質も含め、そ