日本財団 図書館


るとみているようです。

ところで、このような瑕疵によって損害賠償責任が生ずるためには、瑕庇に起因して損害が生じたこと、すなわち、このような瑕疵があれば、通常このような損害が起こりうるという関係があることが必要とされています。

賠償責任を負うのは、第一次的には損害の発生を直接防止できる立場にいる占有者ですが、占有者が損害の発生を防止するために必要な注意を尽くしたことが証明されたときはその責任が免除され、第二次的に所有者が賠償責任を負うことになっています(同条同項ただし書)。この場合、所有者はたとえ無過失であっても責任を負わなければなりませんから、民法第717条の規定は所有者の無過失責任規定ともいわれています。

イ 工作物責任と失火責任法との関係

失火責任法は、失火者に重過失が認められない限り、不法行為として損害賠償責任を負わない旨を定めていますが、民法第717条の工作物責任との関係については、何ら触れていません。そこで、工作物の設置・保存の瑕疵により失火した場合については、工作物責任に失火責任法が適用されるのかどうかについて問題となりますが、これについては、判例・学説とも種々の見解が分かれ、一致していません。すなわち、?@工作物の設置・保存について失火責任法を適用し、重過失がなければ賠償責任がないとするもの(失火責任法はめ込み説)?A民法第717条のみを適用し、失火責任法の適用を排除するもの(工作物責任優先説)、?B工作物から直接生じた火災については民法第717条のみを適用し、そこから延焼した部分については失火責任法も適用するもの(直接火災・延焼部分区別説)などなどいろいろな見解に立脚した裁判例がみられますが、最近では、工作物責任優先説に立つ裁判例が優勢を占めているようです。

ウ 裁判例

工作物の設置・保存の瑕庇により火災が発生し、又は同瑕疵により人命に危害が及んだり、火災が拡大したとして損害賠償責任が認められた一例として、次のような事例があります。

?@木造2階建の旅館に設けられていた炊事・浴場用温水ボイラーの鉄製煙突の土台とその結合部分がブロックで形成され、その隙間はモルタルで埋め込まれていたが、長時間の加熱により、モルタル内の木製間柱に着火して火災となり、宿泊客女性2人が焼死した事故につき、「モルタル内に間柱を入りくんでいたことは、火災危険の大きいボイラーの設置の管理に瑕庇があり、また、不特定多数の者が宿泊する旅館において、法定の消防用設備が未設置であったことは、火災に対する安全設備を著しく欠いた瑕疵があることされた事例(東京地裁昭和43年2月21日判決)。

?A雑居ビルの2階部分を賃借しスナックを営んでいる店舗から出火して2・3階部分を焼失し、客及び従業員11人が死亡、3人が負傷するという火災が発生したが、その原因は、店舗内に設けられたS字トンネル上部の屋内配線の漏電であった。この火災事故につき、「ビルの所有者は、火災が発生したときに備え、容易に外部に避難することができるようにするため、すでに設けてある出入口とは別に、開口部(非常口、非常階段、窓等)を設けておくべきであったが、これを怠ったことには設置・保存の瑕疵があり、また、スナックの経営者が、店舗部分に可燃性の内装材でS字トンネルを設けたことは賃借部分の設置・保存の瑕庇にあたる」とされた事例(新潟地裁昭和58年6月21日判決)。

(5) 債務不履行による損害賠償責任(債務不履行責任)

ア 債務不履行責任の意義

火災との関連で、「債務不履行責任」というのは、例えば、賃借人がアイロンの不始末で借家を焼失し、賃貸人(大家)に借家を返還することができなくなった場合や、これと反対に賃貸人の失火により貸家や貸室を賃借人へ提供することができなくなった場合などのように、契約上一定の債務(契約上の義務)を負っている者(債務者)が、故意又は過失(軽過失)によりその債務を履行することができなくなった場合に、債務者に負わされる損害賠償責任のことです(民法第415条後段)。

この債務不履行責任は、債務者の妻や家族等の同居人などの履行補助者の故意又は過失によって債務を履行できなくなった場合も債務者の責任として扱われます(最高裁昭和30年4月19日判決)。

なお、債務不履行責任は、賃貸借契約の債務不履行の場合のほか、売買契約、一雇用契約、

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION