も出火の件数(密度)をどう想定するかが重要になる。しかし、出火の想定手法が昭和40年代とそれ以後では質的に異なる手法がとられることにより、地域の危険度をマクロに評価するに当たっては、結果として延焼速度が相対的に重要な評価軸となっているのである。
2-1 出火件数の想定手法の推移
出火件数の想定手法は大きく昭和40年代のものとそれ以後のものと大きく二つに分けられる。
(1) 河角式の手法(昭和40年代)
関東大震災時の資料により家屋倒壊率と出火率の関係を求めるものであり、以後50年代になってからも水野氏や建設省により精緻化と検証が行われている。結果としては、関東大震災の結果を強く反映するものとなった。
(2) 出火要因別の地域危険度評価法(昭和50年代以降)
東京消防庁の研究によるもので、出火要因となる火気器具の危険度を評価し、他方火気器具の実態調査により地域の危険度を評価する方法。以後、出火メカニズム(イベントツリー)を確率的に定量化し出火率を推定できるものとなっている。また、阪神・淡路大震災以後、電気などの要因を組み込むなどの改良がなされている。
この結果、マクロ的には地域の出火の危険度は以前に比べて平滑化し、地域の危険度評価としては、延焼速度が相対的に重要視されることになる。また、昭和40年代の想定が関東大震災時の被害を強く反映したものとなり、下町3区の危険性が強く浮き彫りとなり、江東地区の防災拠点整備が急務となった。以後の想定手法の推移により、出火危険の均一化と延焼速度の重視から山の手地区の木造住宅密集地域が危険地として浮上してくることになる。
2-2 延焼速度の想定手法の推移
延焼速度に関する研究は戦前の防空都市計画時に始まる。特に風速による延焼速度への効果の研究がなされている。地震防災対策の開始とともに、この成果を使いながら、建物の規模を考慮し浜田式が提案され利用されてきた。昭和51年の酒田大火を契機として、浜田式が過大評価の傾向があることから、東京消防庁により実例を基に修正がなされた。その結果、延焼速度がやや低く評価されるとともに、風速の影響が小さくなった。その後、長時間に及ぶ市街地大火への拡張や飛び火の考慮などの研究がされているが、今般の地震によってもさらに建物の倒壊の影響による延焼速度の低下を見積もる研究がなされている。
(1) 浜田式
当時の標準建物規模よりの炎上出火、隣棟延焼の時間を利用し、延焼限界距離以内での延焼速度を評価したものである。また、風の影響は風向により区別し戦前の研究を組み込んだものとなっている。結果としては、風速の影響が極めて強いものとなっている。その後、実際の市街地への適応のため、建物構造、高さの修正が加えられた。過大評価の傾向は認められながらも長期に亙り利用されてきたが、酒田大火を契機に東京消防庁式が新たに提案されることになる。
(2) 東京消防庁式(昭和61年)
昭和55年から3箇年の全焼100?u以上の447の実例を基に、浜田式の修正を行った。湿度など新たな要因を加えるなどを行った結果、風速・風向の影響が低下するとともに延焼速度が浜田式に比べ低いものになった。しかし、延焼1時間以内という限界があり、以後その拡張と飛び火の組み込みなどが試みられている。また、震災以後、建物の倒壊による輻射熱の低下に伴う延焼速度への影響を組み込むなどの改良が提案されている。
第3章 焼遮断効果判定技術の推移
出火と延焼速度に加え、昭和50年代に入り、建設省の「総プロ」により都市防火区画が提唱された。大規模道路により火災から独立の地区(区画)をつくろうとするもので、そのための道路による延焼遮断効果の判定技術が提案されたのである。従来は大規模避難空地の設計に用いられたものを精緻化し、道路幅員に適応可能なものとなっている。