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?Eたばこの吸いがらを紙くず籠の中に投げ捨てたため火災となった事例

 

(3) 重失火罪

ア 意義

「重失火罪」は、?@重大な過失によって失火し、現住建造物等又は他人所有の非現住建造物等を焼損すること、あるいは?A重大な過失によって失火し、自己所有の非現住建造物又は建造物以外の物を焼損し、それによって公共の危険を生じさせたことによって成立し、いずれも3年以下の禁錮又は150万円以下の罰金刑に処せられます(刑法第117条の2後段)。

「重大な過失」というのは、ごくわずかな注意さえすれば、容易に火災の発生を防ぐことができたのに、そのような注意を怠った場合、つまり不注意の程度が甚だしく、殆んど故意に近いような場合を意味するのであって、単に不注意によって重大な結果(損害)が生じたからといって重大な過失とされるわけではないのです。

このように、重失火罪は、不注意(注意義務違反)の程度が著しいという点で違法性が高いものとされ、通常の失火罪より重く処罰されることになるのです。

 

イ 裁判例

裁判上、重失火罪として確定したものの一例をあげると、次のとおりです。

?@盛夏晴天の日に、ガソリンが盛んに揮発しているガソリンスタンドのガソリン缶のすぐ近くでライターをつけて火災となった事例(最高裁昭和23年6月8日判決)

?A他人の住居に近接した便所内に空俵が積み重ねられていた状況のなかで、炭俵からむしりとった一にぎりのわらに点火し、照明用に使用したところ、火が炭俵に燃え移り、その住宅を焼損した事例(仙台高裁昭和30年4月12日判決)

?B引火性物品のある作業台に近くでマッチをすって、たばこに火をつけ、軸木の火を消さずに引火性接着剤の入った洗面器内に投げ捨てたため、同接着剤に引火して火災となった事例(東京地裁昭和38年7月24日判決)

?C飲酒するともうろう状態のもとで、衝動的にマッチをもてあそぶ習癖があり、かつ、それを自覚していた者が、漫然し夜間外出先で飲酒し、酩酊のうえマッチで建物の壁に貼ってあったポスターやゴミ箱の紙屑に点火し、放火した事例(大阪高裁昭和41年9月2日判決)

?D繊維問屋街で人家の密集している路上において、喫煙のためにマッチを使用して火をつけ、残火のある軸木を投げ捨てたところ、木造家屋の軒下付近にあるゴミ箱に入って、紙屑が燃えあがったが、大事にいたることはあるまいと思って、そのまま立ち去ったため、紙屑の火がゴミ箱脇のダンボール箱等に燃え移り火災となった事例(東京高裁昭和48年2月8日判決)

?E飲食店の従業員が客用椅子でベッドを作り、暖をとるため、電気ストーブを椅子からわずか30cmのところに置き、トレンチコートを下半身にかけて眠りこんだため、同コー卜が電気ストーブにずり落ちて着火し、火災となった事例(東京高裁昭和50年12月16日判決)

 

(4) 業務上失火罪 

ア 意義

「業務上失火罪」は、業務上必要な注意を怠って失火し、?@現住建造物等(刑法第108条)又は他人所有の非現住建造物等(同法第109条第1項)を焼損すること、あるいは?A業務上必要な注意を怠って失火し、自己所有の非現住建造物等(同法第109条第2項)又は建造物以外の物(同法第110条)を焼損し、それによって公共の危険を生じさせたことによって成立し、重失火罪の場合と同様に3年以下の禁鋼又は150万円以下の罰金刑に処せられます(同法117条の2前段)。「業務」というのは、人がその社会生活上の地位に基づき反覆継続して従事する事務(仕事)のことで、具体的には、職務上、火災の原因となった火を直接取り扱うか、あるいは火災等の発見、防止の義務を負う場合のことを意味します。例えば、ボイラーマン、公衆浴場・食堂などの経営者や従業員、ガソリンスタンドの経営者や従業員、油脂販売業者、劇場・ホテルなどの経営者や従業員、自動車の運転者、電力会社の工事担当者、夜警員などがこれにあたります。このように業務上失火罪の「業務」というのは、職務として、常に火気の安全に配慮しなければならない社会生活上の地位を指すのですから、社会生活上反覆継続して火気を使用するといっても、家

 

 

 

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