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エ 延焼罪

延焼罪には、?@建造物等延焼罪と?A建造物等以外の延焼罪とがあり、?@建造物等延焼罪というのは、自己所有の非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)又は自己所有の建造物等以外の放火罪(同法第110条第2項)の罪を犯し、その結果、現住建造物等(同法第108条)又は他人所有の非現住建造物等(同法第109条第1項)に延焼させることによって成立し、3月以上10年以下の懲役に処せられます(同法第111条第1項)。?A建造物等以外の延焼罪というのは、自己所有の建造物等以外の放火罪(同法第110条第2項)の罪を犯し、その結果、他人所有の建造物等以外の物(同法第110条第1項)に延焼させることによって成立し、3年以下の懲役に処せられます(同法第111条第2項)。

「延焼」というのは、犯人の目的とした物から、予期しなかった他の物に燃え移ってこれを焼損することをいいます。

延焼罪は、いずれも、自己所有の物に放火したところ、はからずも延焼という予期しない重い結果が発生したときに、重い刑で処罰されるという犯罪(このような犯罪を結果的加重犯といいます)ですから、延焼の結果について犯人に認識(故意)がなかった場合にのみ成立するものです。もし、犯人が、はじめから延焼の結果について認識しながら放火したとすれば現住建造物等放火罪、他人所有の非現住建造物等放火罪あるいは他人所有の建造物等以外の放火罪が成立することになります。

 

オ 放火予備罪

放火予備罪は、現住建造物放火罪(刑法第108条)又は他人所有の非現住建造物等放火罪(同法109条第1項)の罪を犯す目的で、その予備をすることによって成立し、2年以下の懲役に処せられますが(同法112条本文)、情状によりその刑を免除することができるものとされています(同条ただし書)。「予備」とは、準備行為をいい、放火のためのガソリンを用意したり、放火用のボロきれを用意することなどがこれにあたります。

なお、政治目的のための放火の準備などを行った者は、破壊活動防止法違反として5年以下の懲役又は禁錮に処せられます(同法第39条)。

 

(2) 失火罪

ア 意義

失火罪は、?@失火により、現住建造物等(刑法第108条)又は他人所有の非現住建造物等(刑法第109条第1項)を焼損したとき、あるいは?A失火により、自己所有の非現住建造物等(刑法第109条第2項)又は建造物以外の物(刑法第110条第1項・第2項)を焼損し、それによって公共の危険を生じさせたときに成立し、いずれも50万円以下の罰金刑に処せられます(刑法第116条)。

「失火により」というのは、過失によって出火させることをいいますが、「過失」とは、一般の人なら当然に注意したであろうことを怠ること(一般の人に要求される注意義務違反)をいい、軽過失ともいわれます。また、「公共の危険」というのは、不特定多数人の生命・身体・財産に対して危害を感じさせるような可能性のある状態をいいます(大審院大正5年9月18日判決)。

 

イ 裁判例

過失(軽過失)によって火災を発生させた者が、実際に失火罪として起訴される例は、むしろ少ないようですが、裁判で確定した失火罪の一例を掲げると、次のようなものがあります。

?@不安定に積み重ねられたふとん(敷ふとん、掛ふとん等5枚)の近くに置かれた石油ストーブに点火し、その場を離れたため、ふとんが点火中の石油ストーブの真近に崩れ、これにストーブの火が着火して、火災となった事例

?A温灸療法を行った際もぐさの火が燃え移っていた綿布をもみ消し、これを丸めて段ボール箱の予備の綿布の上に置いて外出したところ、綿布の残り火が予備の綿布等に燃え移り火災となった事例

?Bアイロンの電源を切ることを忘れ畳の上に放置したまま外出したため、アイロンの熱により畳に火がつき、火災となった事例

?Cふとんに着いた寝たばこの火を完全に消さないまま押入れに収めて外出したため、火災となった事例

?D出火の危険があると認識しなければならないのに、出火の危険がないと誤認して、枯草の生えているそばでたき火をしたため火災となった事例

 

 

 

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