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ヘリコプターによる空中消化研究結果まとまる

東京消防庁 警防部

 

東京消防庁が社団法人日本火災学会に業務委託をして進めていた市街地火災空中消火調査研究の報告書がまとまった。

この調査研究は、大規模な地震時に発生する市街地火災でのヘリコプターによる空中消火の実効性を検討し、今後における効果的な消火用装備及び消火体制の整備を図るための指針を策定することを目的としたもので、自治省消防庁消防研究所等の協力のもと、平成8年8月の予備実験に続き、9月に東京・八王子市の宅地造成地において、模擬家屋を燃焼させ、 ヘリコプターによる空中消火実験を実施するなど、研究が進められていた。

 

◆調査研究・実験からの結論 〜概要〜

▼ 消火効果について

空中消火により、一時的に火勢抑止現象が生じるが、安定した鎮圧状態を導く事は困難と考えられる。空中消火の火勢抑止現象の継続時間は、中型機では約10〜30秒程度、大型機では約40秒〜1分程度であり、その状態を持続させるためには、連続した空中消火の実施が必要である。

従って機材別では大容量ほど効果が大きく、単位時間あたりの散布水量が多い機体タンク式の方が効果が高いと考えられ、搭載水量が多い大型機ほど活動上有利である。なお、火災成長段階の面から検討すると、空中消火は、初期又は終期の火勢が比較的弱い時期の方がその効果が高いと考えられる。

▼ 衝撃度について

実験に使用した消火機材では、速度20kt(時速37km/h)・高度150ft(46m)以上の飛行条件で空中消火を行えば、地上の人命に危険を及ぼすような落下衝撃度は、発生しないと考えられる。

▼ ダウンウォッシュについて

実験に使用したヘリコプターでは、速度20kt(時速37km/h)・高度150ft(46m)以上の飛行条件においてはダウンウォッシュにより、火災から上昇する煙・火炎等への影響が観測されたが、延焼を助長するような危険性は無いと考えられる。ただし、ホバリングでは、高い高度においても影響を観測しており、ホバリングによる空中消火は、行わないことが望ましい。

▼ 火災市街地上空のヘリコプター飛行可能領域

温度測定結果から、その風上側では、30m(98ft)以上で大きな温度上昇は見られず、有効な散布に必要な高度150〜200ft(46〜61m)前後の低空への進入は可能と考えられる。

▼ 飛行騒音について

200ft(61m)程度の低空にヘリコプターが接近した場合、地上への騒音問題が発生し、連続した空中消火を行う場合に問題となる。よって、地上部隊の活動の有無等により実施場所を検討するとともに、地上の指揮本部との密接な連携を図る必要がある。

▼ 消火剤の人体への影響と消火効果

実験において、消火剤の水に比較しての効果は確認できなかったが、他の研究成果から使用条件を選べば消火効果の向上が期待できると考えられる。消火剤の人体及び環境への影響に関しては、今後も慎重な検討が必要である。

▼ 予備散布の効果

本実験では、垂直壁面への消火剤等の付着が微量であったこと、延焼までの時間に付着した消火剤等の乾燥が進行したこと等により、予備散布の効果は認められなかった。しかし、火線直前への散布や繰り返し散布の実施により効果が期待できる他、地震被害を受け、瓦の落下等により構造木材が露出した家屋等への実施も効果的と考えられる。

▼ 今後の課題

★実験・研究開発上の課題

☆火災規模による上空の温度分布等の変化の把握☆消火障害に関する詳細な検討と空中消火の連続回数と効果の関係の明確化☆地震後の市街地状況の分析の必要性☆強風下における実験の必要性☆乱気流の発生の予測手法の開発☆命中率向上のためのフライトシミュレーター等や空中消火機材の開発

★ヘリコプター運行上の課題

☆煙等の視覚障害への対策☆ヘリコプターの大型化への対策

 

 

 

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