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「福祉公社をつくります。理事になってもらえませんか?」

 

ここではある地方の中堅都市A市、とだけ記しておこう。A市が福祉公社を設立する話は三、四年前からあった。一昨年六月、同地で活動しているボランティア団体「さわやか福祉」(仮名)の代表に対して、A市側から「福祉公社をつくることになった。老人の在宅介護の分野で経験深いあなたに、理事として就任してほしい」と要請があり、公社が在宅介護の活動に乗り出すことが明らかになった。

この依頼を受けて「さわやか福祉」側では、自分たちが七年余りにわたって力を注いできた草の根運動への危機感から、理事就任を否定する声が強まる。「代表を理事に出せば公社に外堀を埋められる」「会長を人質に取られてしまう」といった意見が主だった。なにせ、一般的には、「さわやか福祉」のような草の根団体はこれまで行政側から「鬼っ子」扱いされ、存在や活動の意義を正当に認めてもらえないこともしばしばなのだ。

しかし議論は続く。そして、次第に、当初は反対意見が主流だった雰囲気も「公社に巻き込まれるのではなく、むしろ"官"に対してわれわれ市民の立場に立つ要望を出して、それを実現させてはどうか」「草の根で蓄積した経験を生かし、公社の構想に注文をしていこう」との肯定的な声が大きくなっていった。そして、再三にわたるA市側からの催促もあり、判断すべき時期とみた代表は、副代表らと最終調整に入る。結論として「A市の老人福祉を進展させるためならば」と意見を集約して、理事就任を受諾した。

 

「団体を解散してください」

 

さて、理事就任承諾を踏まえて、市側は説明会を開き、担当責任者三名が「さわやか福祉」側代表者に次のように構想を説明した。

A市は福祉のシステム化を急ぐにあたって、福祉公社を設立する。公社の仕事は高齢者および障害者対策。在宅介護の分野でいえば、公社はまず

 

 

 

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