日本財団 図書館


「しつけと放任と。個性を伸ばせる環境づくり」

堀田 子供というのは、やさしい面も持っているし、一方で無邪気なゆえに残酷な面も持っています。私は子供社会は大人社会の鏡だと常々いっておるんです。今のギスギスした冷たい社会全体が、子供たちからも、弱いものをいたわるやさしい気持ちや、人生を前向きに生きる強い力をなくさせてしまっています。何とかこれを変えていきたい。先生の長いご経験でどういう教育が必要だとお考えですか?

鹿島 具体的には、ひとつは「言葉かけ」でしょうか。例えば障害を持った人を見かけた時、お母さんがその人をいたわるような言葉で子供に語りかける。そんな何気ない日常の中で、子供も自然にやさしい心を受け継いでいけます。要は環境づくりです。子供自身で考え、成長していける環境をつくってあげることが必要なんです。それ以上に管理したり、あるいはただ単に教え込んだり、という教育では子供が本来持っている力をゆがめてしまいます。

堀田 まさに先生の保育園では、「自由に伸ばそう」という方針を実践されてますよね。作家の灰谷健次郎さんらとご一緒に、園を創設された当時からずっとそうした放任主義を貫いてこられた。

鹿島 ええカッコにいうたら自由保育という形でやってます。「何々をしなさい」とかがまったくないんです。給食の時だけみな集まって、後は自由に好きなことやってる。プールだって、「ぼく、プールいやや」という子は本を読んだりしてますし。

堀田 与えられないから、自分で何をしたいか、どうすればいいかを考える余地が生まれてくる。

鹿島 ええ。実はこの冬、保育園の子を六甲山スキー場へ連れて行ったんです。スノーボードで滑るぐらいの遊びなんですけどね。うちは統制なんか何もないから、バスを降りたら、ウワーッとゲレンデに走って行って、それこそ好き勝手ですわ。保母も自分らが遊びたいから、子供と一緒にキャアキャアいって。ぼくは長いこと先生しておったから、「あんたら便所がどこやとか、逆に登って人に迷惑かけたらあかんとか、教えなあかんのとちゃうのん」とか思うわけですよ。そこに別の幼稚園が来たんです。規律正しくきちっと指導されていて、感じのいい幼稚園で。

堀田 いかにも優等生然とした子供たちと、自由奔放な子供たちの一団の遭遇…。おもしろそうだな。

鹿島 保母さんも園長先生もスタイルがものすごい凛々しい(笑)。園長先生が一つひとついい聞かせるように話しているのを、じーっと子供たちが聞いておるんです。本当にうらやましかったですわ。ぼくなんか、子供の前で話をさせてもらったこと、ないんです。園長先生なのに(笑)。

堀田 それは、それは(笑)。

鹿島 それからじっと見てたんですが、その子たちは手をつないで一列に並ぶ。先生がピッと笛を吹く。スススーッとみんな一直線に降りてくる、ずっとそれです。何か整然とし過ぎてて、軍隊調みたいで。ところがそれから数時間後、そっちの幼稚園の子供は飽きてくるんですよ。滑り方がいつも「こうしなさい」といわれたワンパターンですからね。でもうちの子は、肩を組んだり、うつぶせになったり、実に個性的に自分たちで工夫しながら楽しんでるんです。

堀田 先ほどの例を考えても、子供には最小限度のしつけは必要ですが、後はなるべく自由にさせる。自然に伸びる力を持っているんですよね。その力を殺さず見守ってあげる。それが先生のおっしゃる環境づくりなんでしょうね。

 

005-1.gif005-2.gif

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION