学生たちは防災センターに泊まり込み、七月末からの一〇日間に、延べ十二人が五〇軒以上の家庭を訪問して精力的に使い方を教えて回った。
「こういう過疎の村はどこも似たようなものでしょうけど、閉鎖的なところがあって、よそから来た人に馴染むのに時間がかかるんですよ。はじめの二日ほどは住民からの訪問依頼が全然なくてなあ、気の毒でしたよ。それで、パソコンでチラシを作ってみたいんだが、とお願いして来てもらったんです。そのときが初めてですね、うちのパソコンでもこんなことができるんだと感動して」
冒頭に登場した小向さんは、村で雑貨店兼料理店を営む。パソコン配付については「まあ、いいんじゃないか」程度の賛成派。とりあえず配付を希望してみたものの、梱包材から出したままパソコンは居間の片隅に置いてあった。「よその家のパソコンではなく、うちのパソコンで何かができるということに大きな意味があった。それからですね、パソコンにはまったのは」
自称・普通のおじさんの小向さんは家族も巻き込み、俄然、パソコンに夢中になる。五〇の手習いである。
