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をおにぎりにしておいて、それをあげるととても喜ぶ。その喜ぶ顔を見るのがとてもうれしい。食事は、よく考えて作ってくれます。行事や季節に合った料理を出してくれるのが、とても楽しみ。家では、息子夫婦が共働きだったこともあり、行事や祭日だからといっていちいち特別な料理を作っている暇がなかったから余計うれしい。今は本当に幸せ。生きていてよかったと思っているくらいです」

Sさんは落ち着いた口調で長い時間、話してくれた。

「自殺しようとした話などするつもりはなかったけど、今日は何だかすっかり話してしまい、かえって心のなかがすっきりしてきてとても楽しかった。ありがとうございます」と深々と頭を下げられ、私は戸惑ってしまった。働き者のSさんは、孫の世話をする仕事が無くなってからは、息子家族のなかでひっそりと淋しく暮らしていた。しかし、その淋しさを口に出すこともしなかったし、忙しくしている息子夫婦に気がねして話しかけることもできなかったのである。

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特養ホームで暮らすお年寄り一〇〇人のなかのほんの数人の話を紹介させていただきました。この調査を終えてまず第一に感じることは、お年寄りは、たとえ大家族の中で暮らしていても、施設で暮らしていても孤独だということ。また、日常生活において、お年寄りの人間としての権利が無視されていたり、プライバシーが侵害されているといったことに対する不満の声が非常に多いということです。しかも、そのことを職員の多くが全く気が付いていないのです。「老いることは、孤独になること」と長男、長女を先に亡くした九二歳のあるお年寄りがいっていました。

どんなに年老いても、一人の人間としての尊厳を守り、家族や職員、ボランティアの人だけでなく、近隣の住民が、お年寄りを社会の一員として見守り、接することが何よりも大切と感じさせられた今回の調査でした。

 

 

 

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