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職員に対しては「寮母さんはいい人が多いし、がんばっていると思うが、あまりに忙し過ぎる。この間も「ヒゲがのびてしまったから剃ってくれないか」と頼んだら、「いま、シーツ交換があるから」とか、「○○があるから」といってなかなかやってもらえない」と少し不満をもらした。

ここでは毎日どのように過ごしているのですか、と尋ねると「本や雑誌を読んだり、ラジオを聞いたりしている。ここでは私が一番若いということもあって、他の人とはあまり話が合わない。いま、一番欲しいのは、話し相手だね。同世代の人と話ができれば本当にいいだろうなあ」としみじみ語る。

その他に何か希望はありますかと聞くと「酒の一杯も飲めれば最高だけどね。このホームはキリスト教団が運営しているので、お酒が出るのはお正月だけなんだよ」といって淋しそうに笑った。

いまの制度では、特養ホームを自分で選ぶことはできない。○○ホームに入居できますという許可があって入ることができる。Yさんはこの特養ホームが酒を禁止するという運営方針に納得して入居を決めたのではないのである。私は家でワインを飲むたびに、Mさんのこのささやかな望みを何とかかなえてあげられないものかと思うのである。

 

この特養ホームを訪ねて三日後、今度は、都内にある特養ホームを訪ねた。公設民営の施設には珍しく、一階には、地域の人にも開放されたボランティアが運営する喫茶店がある。近くの病院の職員や近所の人たちが利用していて、「ここが特養ホームだということに気がついてない人もいるんですよ」という。もちろんお年寄りも車イスでよく利用しているし、家族との面会にも利用している。イギリスの上等なコーヒーカップと品質のよい調度品を揃え、落ちついたよい雰囲気である。居室に行くと共有スペースもソファの色や大きさにも細かい配慮が感じられた。また、観葉植物等を置いて温かい雰囲気が醸し出されていた。

 

 

 

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