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ここで最初に会ったのは、八六歳になるIさん(女性)。Iさんには、息子が六人いて、それぞれ独立している。夫が亡くなった後、一人で暮らしていたが脳梗塞で倒れ、一年半もの間入院した。病気の後遺症もあって、退院後は、一人で暮らしていくのは無理だろうと思い、特養ホームに入ることを決めたという。このことを息子たちに知らせると、「何で老人ホームに行くんだ。老人ホームに行くぐらいだったら俺たちの家に来たらいい」と口々に反対されたが、「老後は、子供たちと住まないで、気楽に自分たちの生き方を大事にしていこうと夫婦で決めていた。お父さんが死んだいまでもそう思っているから、好きなようにさせて欲しい」と頼んだという。

Iさんは、「もし、子供たちがどうしても反対したら、親子の縁を切ってでも入ろうと思っていた」という。息子たちは、しぶしぶであったが納得してくれた。

「ここに入って本当によかった。離れることによって親子関係が密になり、子供たちもよく訪ねて来てくれる。私は、ホームの不満は、決して家族にはいわないのよ。母親は老人ホームに入って可哀相だと思ったら、子供たちが可哀相だから」と子供たちを思いやる。Iさんは、また「老いては子に従えなんて、とんでもない。自分の生き方を死ぬまで貫いていきたい」と自分の意思をはっきりと語った。Iさんの自分らしく生きる生き方に、私は終始圧倒され続けた。

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